出版社内容情報
重厚な歴史小説とともに多くの短篇を残した吉村昭。昭和後期から平成一八年に没するまで、「後期」の作品群より遺作を含む一五篇を収録。〈編者解説〉池上冬樹
内容説明
滅しゆく身体の変化。ほのかな生命のゆらぎ。若き日に死線を彷徨った作家は、生涯を通して生と死を見つめ続けた。円熟の晩年を迎え、その静謐な目は何をとらえたか。短篇小説の名手でもあった吉村昭が昭和後期から平成一八年までに著した、遺作「死顔」を含む一六篇。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927(昭和2)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。58年、短篇集『青い骨』を自費出版。66年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。73年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、79年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、84年『破獄』で読売文学賞を受賞。2006(平成18)年没
池上冬樹[イケガミフユキ]
1955(昭和30)年、山形県生まれ。立教大学日本文学科卒。文芸評論家。東北芸術工科大学教授。週刊文春、共同通信、産経新聞ほかで幅広く書評を執筆する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
77
吉村昭=私小説作家というイメージがなかったのだが、生涯にわたって同一のモチーフを繰り返し描写し続けた作家だったと本書を読んで知った。掲載されている短編はいずれも重いものだが、死を描くことで生を際立たたせているという点で共通したところがある。もっと早くから読んでいたかった作家のひとりだ。2021/06/20
fwhd8325
69
その景色がはっきりと浮かんで見えるような短篇集です。命の儚さと対比にある強さ。どちらに自らを置いて読み解くかは、読者である私の年齢にもよるのでしょう。この短篇集の中では「死顔」は、発表時に読んでいましたが、十数年経て読んだ感想はまた別の考えが浮かんできます。だから小説は面白いのだろうし、吉村昭に作品はすごいのだと思います。2021/08/14
キムチ
62
池上氏編でこの5月に出たもの。全集で既読したモノとは言え、こうして別な視点で読むと改めて突出した彼の筆力に心が震える。10年後、知力が残っていたら必ず再読したい1冊。池上氏の解説が好ましい~ヘミングウェイやシーラッハと共通するハードボイルド文体との評。自らを振り返ると確かに「切り詰めた言葉と感情表現を抑えた凝縮されたイメージ」を好む事を再認識。16の短編には掌編ともいえる10枚の原稿に閉じ込めた小説世界もある。標題とその世界との関連が浮かぶもの、❔のモノ・・秀逸かつ端正な吉村氏の文章だからの手法。敢えて2021/10/01
タツ フカガワ
60
収録された16編のうち12編は既読でしたが、それでも読み始めたら手が止まらなかった。ほとんどの作品に一貫するのが吉村さんの死生観。たとえば遺作となった「死顔」のなかで、治癒の可能性のない延命措置に疑問を投げかけ、「いたずらに命ながらえて周囲の者ひいては社会に負担をかけぬようにと配慮した」幕末の医師佐藤泰然の死に方を賢明な自然死と書く。「もう、死ぬ」と言って、体に埋め込まれたカテーテルを自ら引き抜いて逝った吉村さんの最期が思い出され、グサリと胸に刺さった一編でした。2023/03/26
たぬ
38
☆4.5 1975年の「船長泣く」から遺作となった2006年の「死顔」まで16篇。どれも甲乙つけがたいけどあえて選ぶなら「船長泣く」と「見えない橋」かな。吉村作品は読むといつも厳かな気分になる。それが死をメインテーマにしたものではなくても。作者のお見舞い考・故人との最後の別れ考はとても納得できる。2022/02/03