出版社内容情報
『戦艦武蔵』発表から昭和期まで。作家・吉村昭の最盛期である「中期」に書かれた自選短篇のなかから、選りすぐりの逸品を文芸評論家・池上冬樹が紹介。
内容説明
透徹した視線、研ぎ澄まされた文体。『戦艦武蔵』以降、全盛期の自選短篇から、吉村文学の結晶たる名品10篇を収録。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927(昭和2)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。58年、短篇集『青い骨』を自費出版。66年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。73年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、79年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、84年『破獄』で読売文学賞を受賞。2006(平成18)年没
池上冬樹[イケガミフユキ]
1955(昭和30)年、山形県生まれ。立教大学日本文学科卒。文芸評論家。東北芸術工科大学教授。週刊文春、共同通信、産経新聞ほかで幅広く書評を執筆する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐島楓
78
刑務所に材を取ったもの、戦争後の父の死を扱ったものと、いずれも生と死の表裏一体を感じさせる作品が並ぶ。とても切実なことごとを書いているのに、文体はあくまで乾き、装飾もほとんどない。そのことによって文章の向こう側にある題材の本質をつかみ取ろうと試みていることがわかる。鋭利な作品群。2021/04/18
fwhd8325
70
刑務所関係と父親をテーマにした短編。カテゴライズされていることで短編でありながら、長編を読んでいるような充足感があります。あくまでも個人の感想ですが、吉村昭の作品には隙がなく、それはもう芸術と言えるのだと思います。景色だけでなく、人の心動き、そこに描かれている匂いまでも感じられるのです。2021/11/06
たぬ
33
☆4.5 1977年の「鳳仙花」から1985年の「鋏」まで10編。どれも静かに胸に迫る。史実をベースにした長編も良いけれどこういう純文学もいいなあ。何気ない会話が本当に心に沁み込んでくる。『大本営が震えた日』と『逃亡』の後日談的作品もあって読んだ時の興奮がよみがえりました。2022/02/18
有理数
23
吉村昭、いいよね……、いい……。刑務官、親しい者たちの死、そして戦争。重苦しい主題の短編が続き、熱中して一挙に読み進められるものではないが、主題の重さに対して物語や文章そのものに過剰な熱量が無い。登場人物たちの感情や物語が揺さぶり震えたとしても、文章は静謐な佇まいのまま、その揺さぶりの中心、その克明な一点を穿ち続けている。そういうトーンが揃い踏み短編集。戦時下の父親の死を描く短編連作も魅力的だが、ベストは巻末を飾る「月下美人」。贖罪と再生、人生の交わりがタイトル通り花開く瞬間が美しい。吉村昭もっと読もう。2021/06/06
アドソ
20
死刑囚と執行人、父の死、元犯罪者等々、生と死のきわどい淵を行き来する人々の物語が10扁。限りなくノンフィクションに近いフィクションという気がするが、そういう気にさせてしまうのが吉村昭の筆力なのかもしれない。中毒性のある作家だが、その魅力はとにかく克明な描写と、取材を単なるドキュメンタリーで終わらせない文学性にある。長編記録小説のスピンオフストーリーとしてリンクする話もあり、長編の方も読んでみたくなる。2021/10/21