出版社内容情報
若き日に荷風の文学世界に引き込まれた著者が、名作の舞台と戦争へと向かう昭和初期の時代とを合わせて読み解く。旧版に評論「水の流れ――永井荷風文学紀行」を増補。巻末に荷風『?東綺譚』全編を完全収録。〈解説〉高橋昌男
内容説明
若き日に荷風の文学世界に引き込まれた著者が、戦争へと向かう昭和初期の時代と名作の舞台とを合わせて読み解く。旧版に評論「水の流れ―永井荷風文学紀行」を増補し、巻末に荷風『〓東綺譚』全編を収載。随筆と小説が織りなす幽艶な詩的世界を現出する。
目次
私の〓東綺譚(美的リゴリズム;白鳥の歌;朝日での連載;荷風の「悪戯」;横光利一『旅愁』;大人と子供の違い;驟雨の出会い;秋雨の別れ;銀座の夜店で;私家版『〓東綺譚』;荷風と芸者;八重次との破局;イデスへの想い;書けなかった「吉原」;『秋窓風雨夕』;『作後贅言』―一年の好景君記取セヨ)
水の流れ―永井荷風文学紀行
〓東綺譚(永井荷風)
著者等紹介
安岡章太郎[ヤスオカショウタロウ]
1920(大正9)年、高知市生まれ。慶應義塾大学在学中に入営、結核を患う。53年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。吉行淳之介、遠藤周作らとともに「第三の新人」と目された。60年『海辺の光景』で芸術選奨文部大臣賞・野間文芸賞、82年『流離譚』で日本文学大賞、91年「伯父の墓地」で川端康成文学賞を受賞。2013(平成25)年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
浅香山三郎
10
2019年11月刊。新潮文庫版を増補し、さらに永井荷風「濹東綺譚」を収める。安岡章太郎が、「濹東綺譚」執筆の頃の荷風と、その舞台を歩きながら、自身の抱く荷風像を語る。後半に「濹東綺譚」全文(「作後贅言」を含む)を収録してゐるので、こちらを先に読んだ方がより安岡章太郎の視線がよく分かる。荷風の美文に酔ひながらも、「濹東綺譚」発表時の世間からの受けとめられ方や、荷風によるこの小説の構成の工夫まで、自身も小説を書く立場からの、安岡さんの読み込みが興味深い。2022/10/14
雲をみるひと
8
永井荷風の濹東綺譚をテーマにした随筆集。濹東綺譚の解説本ではない。本作においては濹東綺譚そのものも収録されており、背景等わかりやすい。初出から80年以上が経過した今でも男性に一種の憧憬を抱かせるような魅力のある濹東綺譚の印象が強すぎて本編が食われてしまっている印象は否めない。2019/12/18
go
4
やっぱりみんな荷風にハマるんだなと思った。それはそうかと。2020/10/16
まぶぜたろう
2
荷風の「濹東綺譚」はあまりに温度が低く、今回、久々に読み返してもさほど面白いとは思えず、逆に安岡章太郎のノスタルジックな「濹東綺譚」エッセイの方がよほど面白い。 ■とりわけ、荷風の原典の引用を交えながら、安岡が「濹東綺譚」を追い書きするような記述が素晴らしい。「濹東綺譚」はそもそもが(素朴ではあるが)メタ的な小説だが、それをさらに複雑に上書きする面白さ、幻惑感。今はなき玉の井の裏路地を、小説世界を、安岡はタイムトラベラーのように彷徨うのだ。2019/12/21
午睡
1
万事少しも力むところのない翁、といった印象の安岡章太郎が、この本では不思議なくらい熱っぽく荷風の魅力、とりわけ墨東綺譚の魅力を語っている。いままで何度も読んできたはずの墨東綺譚を、この熱意にほだされまた三読四拝。すると、いままで目で流して読んでいたものか、細かな描写や構成の妙に気づかされた。 とりわけ作者贅言にある荷風と落魄した老人、神代菷葉( 本名:神代種亮)とのやりとりには深く感じ入った。現代の作家、小林信彦が国枝史郎の「神州纐纈城」をめぐって老編集者真野律太と交誼を結ぶエピソードなどを思い出す。2019/12/26