出版社内容情報
二十八日ノ船デ暑イ所ヘ行ッテ来マス――。一九四一年に南洋庁の官吏としてパラオに赴任した中島敦。その目に映った「南洋」とは。珠玉の小品『南島譚』『環礁』に当時の日記・書簡を加えたオリジナル編集。
内容説明
二十八日ノ船デ暑イ所ヘ行ツテ来マス―。一九四一年に南洋庁の官吏としてパラオに赴任した中島敦。その目に映った「南洋」とは。小品『南島譚』『環礁』に加え、南洋群島(ミクロネシア)から妻子に宛てて毎日のように綴られた多くの書簡を収録。
目次
南島譚(幸福;夫婦;〓)
環礁―ミクロネシヤ巡島記抄(寂しい島;夾竹桃の家の女;ナポレオン;真昼;マリヤン;風物抄)
書簡 昭和十六年六月‐昭和十七年三月
著者等紹介
中島敦[ナカジマアツシ]
1909年(明治42)、東京・四谷に生まれる。30年、東京大学国文学科入学。32年、橋本たかと結婚。33年に卒業し、横浜高等女学校に国語科教師として就職。職の傍ら執筆活動に取り組み、「中央公論」の公募に応じた『虎狩』(1934)で作家としての地位を確立。41年7月、パラオ南洋庁国語編修書記として赴任。持病の喘息と闘いつつ『山月記』『文字禍』等を書き上げ、『光と風と夢』は芥川賞候補になる。42年(昭和17)、職を辞して作家生活に入ろうとしたが、喘息が重篤となり、同年12月に三十三歳で逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
56
著者の南島に関する小説と家族への書簡を収録した一冊。小説を読んでいると何処までも青い空や果てしなく広がる透き通った海、そして真っ白な環礁が目の前に浮かんでくるようで文章の妙というものに酔わされるよう。そしてそんな中にあっても何ら変わることのない人間。個人的には島での生活を直接描いたものより、「幸福」とかの寓話めいたものの方が好きかな。書簡の方はいずれも初めて読むけれども、著者の社会人として家庭人としての面は初めて知ることが出来た。無いものねだりとはわかっているけど、著者のこれからの小説を読んでみたかった。2019/08/07
おっとー
10
中島敦が南洋庁官吏としてパラオに赴いた際に見聞きした物語と、家族に送った手紙を収録。まだ太平洋戦争開戦前だったせいか、手紙を読んでいてもどこかのどかな雰囲気を感じられる。「写真屋に絶対に行くように」⇒「あれは余裕のあるときでよい」、「○○を送ってほしい」⇒「やっぱり急がなくていい」など家族への依頼が二転三転していて優柔不断さを感じられたり、子どもへの手紙ではですます調とだである調が入り混じって違和感のある感じになっていたり、不思議な味わいを感じさせる(手紙が文庫化されてしまう敦も可哀想ではある)。2021/12/25
塩崎ツトム
7
中島敦は、真珠湾攻撃からおよそ三か月後に日本に帰国。本書にはのちに南海の激戦地となった島々が登場し、まるで生前の行動を繰り返す地縛霊たちを見つめているような気分になる。サイパン島で琉球言葉のお芝居を催していた人たちも、きっとというか、間違いなく……。2021/04/16
hiratax
3
南タイの離島で読む。妻と子供への手紙を少しずつ読めるのが良かった。この島の南側に水平線が拡がり、乾季で雲がない。旅に行くたびに南十字星を見ようと企てていたが、いつも雲や山に邪魔をされていたが、ここなら観られるだろうと思った。夜は8時には街が真っ暗となり誘惑もない。12時に寝て5時に起きて見た南十字星は小さな星だった。近くに光る、ニセ十字の大きさ、形の雑さと比べれば南十字星はとても謙虚な星で、目印となるポインタは北半球なので逆に見えると、理科の知識も確認する。2020/01/06
wearnotequal
3
大戦前に南洋パラオに官吏として赴いた主人公。まだ平和な日本領土だった現地ののんびりした様子は、その数年後には激戦地となるとは誰が想像しただろう。その様を本土へ住む家族へ手紙で仔細に記述。遠く離れた家族を気遣う様子が伺える。最後に戦争が始まるが激戦を待たずに終わる。ノンフィクション故仕方ない。2019/11/09