内容説明
近代はアジアの海から誕生した―。戦後、誰も疑うことのなかった陸地史観による通説に真っ向から挑み、その壮大な歴史観は「太平洋文明の時代」に日本が進むべき道をも提示する。第8回読売論壇賞受賞作。
目次
序 新しい歴史像を求めて
起之章 「鎖国」と近代世界システム
承之章 歴史観について
転之章 文明の海洋史観
結之章 二十一世紀日本の国土構想―西太平洋の「豊饒の半月弧」に浮かぶ“庭園の島(Garden Islands)”
跋 新しい生き方を求めて
著者等紹介
川勝平太[カワカツヘイタ]
昭和23(1948)年、京都生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程修了。昭和60(1985)年、オックスフォード大学から博士号取得。早稲田大学政治経済学部教授、国際日本文化研究センター教授、静岡文化芸術大学学長をへて、平成21(2009)年より静岡県知事。平成8年『富国有徳論』でアジア太平洋賞(特別賞)、平成10年『文明の海洋史観』で読売論壇賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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南北
24
東大に代表されるマルクス主義史観や大塚史学と京大に代表される梅棹忠夫生態主義史観の両方を陸地中心の考え方であると批判したのが海洋史観です。海洋アジアからの輸入品の対価として貨幣素材の流出が増えて西欧と日本の両社会に経済危機を引き起こしたことに対応するため、西欧では「産業革命」を起こし、日本では「勤勉革命」を起こして対応したのです。これにより海洋アジアからの輸入品を自給自足できるようになり、西欧は海洋イスラム世界から自立し、日本は海洋中国から自立できたということです。いずれ再読したいと思います。2019/06/16
Ex libris 毒餃子
14
経済学者としての川勝平太。社会経済史学としてエポックメーキングらしいと聞いて読んでみました。マルクス「史的唯物論」と梅棹忠夫「文明の生態史観」を批判的に検討したのちにウォーラーステイン『世界システム』を基盤にして、文明の経済的発展を海を中心して論じた本。跋は川勝の感想でしかないような気がするが、学者としてはまともなんだな、という印象を受けました。逆に、この思想背景を基にすると確かにリニアモーターカーをひかなそうな気もする・・・。2024/09/29
うえ
10
日本と欧州の15-17世紀の「歴史の歩みが正反対になった」理由。欧州の購買力の供給地は米大陸にあったが日本はあくまで国内であった。欧州は植民地を「不可欠な構成要素としたので、人口は相対的に稀少となった」。稀少な為、資本集約的方法をとり労働生産性をあげた。対し日本は資本節約をし、牛馬が激減し牧場を田畑に変えた。欧州はイスラム由来の戦争の家・平和の家という世界観がありそれを体系化したのが1625年のグロティウス『戦争と平和の法』であった。対して近世江戸では修身・斉家・治国・平天下という世界観であった。2022/01/15
sa10b52
3
文明の生態史観読んだことあったけど、なるほどマルクス主義と対置して読むべきなのだなと。そういう近現代(?)の思想の位置づけを明らかにしたうえで、筆者が提唱する海洋史観が興味深い。筆者の説くところではないが、発展の度合いを軸とするマルクス主義は一神教的で、多様さで語る京大哲学の側は神道的というか多神教的なのかなと思ったりした。今日の政治を騒がしている川勝氏であるが、その物事に知悉したうえでそれを体系的にまとめあげ、新たな考えを提唱するのはすごい。2024/05/31
デンプシー
2
西洋史・東洋史・日本史の枠を越えて、海こそが文明を創ってきたことを説得的に描いていく本書のダイナミックさに、ページを進める手が止まらなかった。こういう大局的な議論はややもすれば雑なものになってしまうが、本書はそのあたりを丁寧にケアしており、好感が持てた。一方で、史学や京都学派についての自分の浅学さゆえに、ところどころピンとこない記述があり、著者の議論を受け止めきれず惜しい感じがした。2022/09/15