内容説明
寛政六年から翌年にかけて、浮世絵界に忽然と現れて消えた画号「東洲斎写楽」。その正体は誰なのか。そもそも戦後になって「誰それ説」が乱立したのはなぜなのか。江戸文学研究の立場から文献資料に残された手がかりを丁寧に考証し、写楽=阿波藩士斎藤十郎兵衛説を証明する。
目次
第1章 江戸文化における「雅」と「俗」―写楽跡追い前段
第2章 すべては『浮世絵類考』に始まる
第3章 斎藤月岑という人
第4章 『江戸方角分』の出現
第5章 『江戸方角分』と写楽
第6章 大団円
補章 もう一人の写楽斎
著者等紹介
中野三敏[ナカノミツトシ]
1935(昭和10)年福岡県に生まれ、佐賀県に育つ。早稲田大学第二文学部卒、同大学大学院文学研究科修士課程修了、文学博士。82年より九州大学文学部教授を務め、99年退官。その後、福岡大学教授を務め2006年退職。九州大学名誉教授。1998年紫綬褒章、2010年文化功労者、12年瑞宝重光章。著書に『戯作研究』(サントリー学芸賞、角川源義賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こぽぞう☆
14
「東洲斎写楽は○○だ!」的な本は、浮世絵好き、ミステリー好き、美術史好きにはたまらないモノで、私もたくさん読んだ。しかし、これが決定版でいいと思う。今後、斎藤十郎兵衛作の肉質画とか出てきたら面白いなぁ。解説も豪華二本立てで、著者の説を裏付ける。2018/08/28
風花
10
お気に入りさんよりオススメの一冊。『東洲斎写楽はもういない』を先に読んでいたこともあって、「もうこの結論で間違いないよね」と、素人の私にも納得の一冊でした。この本にあるように丁寧に説明されると、なぜ他の説がまことしやかに語られてしまったのかが、本当に不思議。本物の写楽さん、草葉の陰で気が気じゃなかったのじゃないかしら?2017/06/25
Akito Yoshiue
6
考証が丁寧でよくわかる。2020/12/08
紫
4
2016年、おそらく最後の読了本。2007年刊行の同タイトルの新書本の文庫化であります。近世文学史研究の大御所による東洲斎写楽論。この9年の間の写楽研究の進展を反映させて増補や改訂はあるのか?と期待したものの、そんなことはなく内容は底本のまま。新たに追加されたのは木田元氏の書評と岩田秀行氏の解説の巻末二本立て。書評は書評といいつつ本書のダイジェスト的紹介でして、本書の論旨がわずか12ページに要約されているという超親切設計。底本刊行後の写楽研究の成果は岩田氏の解説で補ってもらっています。星4つ。2016/12/29
Berlin1888
4
かつて新書で刊行された親本に豪華二本立て解説をくっつけた文庫版。東洲斎写楽=阿波藩能役者説の立場から、写楽誰それ説の論者がいかに都合のいいことばかりをいっていて信用できないかを痛烈に批判。写楽の評価が高くなるのは開国後の話。いくら江戸の文人がヒマ人だったからといって、無名の二流絵師の素性をわざわざでっち上げることに何の意味があるのか。江戸における歌舞伎や浮世絵のステータスに対する無知が、写楽を謎にしてしまったという著者の主張は至極ごもっとも。2016/11/15