内容説明
正月にうごめきだす身体感覚、バスで出会った小さな画伯、微笑を誘う大学生たちとの日常―一日一日を「緊張感のあるぼんやり」のなかで過ごしてみると、なじみのある本や人々が見知らぬ顔をする。ふいに起こる生活の地殻変動を繊細につづった散文45篇、そして初の長篇詩。耳の奥で行き交う「回送電車」シリーズ第4弾。
目次
1(黒飴の瞳;おなじ名を三つ背負って ほか)
2(明日の言葉―万葉集について;日本の古典を旅する ほか)
3(越すに越されぬ飛鳥山;荒川風景―長谷川利行 ほか)
4(黄色い幻;日傘を差した女たち ほか)
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964年、岐阜県生まれ。作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
38
「回送電車」という副題のエッセイ集の第4作目です。さいしょに本の表題となっているながい散文詩があり、印象に残りました。これを読むとやはり文学者だなあというイメージになります。どちらかというと小説エッセイ半々くらい読んでいるので文学作品となると印象が薄めになってしまいます。このエッセイ集は日ごろの生活などについてのものが多く、自分にとってもうなずけるものがあったりして楽しんで読んでいます。2014/12/08
アナクマ
31
請われて書かれたものとはいえ、かような雑文(貶めてはいない)が書籍になる人とならない我々との違いはなんだろう(もちろん大いに違うのですが)。誰もが何かを経験し、想い、考えているわけで、消えていったそのボリュウム/広大無辺/あてどなさに立ち尽くすことであるよ。◉「未来の自分こそ、圧倒的な他者として立ち現れるべき」「学ぶという営みの、その(当人の死によって)途切れたままの雰囲気」「生きているしるしが、会うことよりも、会わないことのほうにあるのだ」(荒川洋治)。◉どんな片言であれ、触媒にはなるのだ。2023/09/17
ぽち
14
様々な媒体に記された小文をまとめたシリーズ第四弾。Ⅰ~Ⅲに比べてごく短い文章のものが多く全体に軽やかな印象を受ける、のだけど親本が刊行されたのが2011年5月。冒頭に置かれた初めて?の詩作「象が踏んでも」あとがきにかえてと付されている「象が踏んでも壊れない世界だけは考えないこと」が本書に重心を加える。いつもながら、飛び石のような連想に驚き、博識に憧れ、たくさんの書物に思いを馳せる、写真と、書くことについて言及している「本質を汲み出す泉」が印象的だけど、ほかにもよい編がいくつもいくつも。2016/11/15
Roti
10
堀江敏幸のエッセイ、「回送電車」シリーズの第4弾。といってもこの作者のエッセイを読むのは初めて。小説自体も散文的な要素があるので、主題とするものの連続性がなく、単独で思考される短文を集めたもの、つまりそれがこの堀江ワールドの「エッセイ」である。「河岸忘日抄」「いつか王子駅で」「雪沼とその周辺」などの小説が書かれた背景や着想の切っ掛けなどが書かれており、興味深かった。印象に残った文章。「言葉は死んだ瞬間に生きはじめる。旅は終わった瞬間に新しい旅を可能にする。終わりのないこと。それが、旅の本質でもあるのだ。」2017/09/24
rigmarole
6
印象度B。著者は新しい感性、新しいものの捉え方を開拓していると言えそうです。それが成功しているのか否か、まして、それを読者にうまく伝え切っているか、私にはわかりません。彼ほどの経験と知識を持たない私には、正直、ピンと来ずに理解に苦労する話も多いです。しかし彼は、突飛な余り読者に受け入れられなくならないように一般性を確保しつつ、(それと矛盾するかの如き)独自性をもった提案を試みているように思われます。残念ながら印象の薄い話が多かったものの、「疲れのかたち」は馴染み易く、展開・オチがあり、ほっこりしました。2016/02/29