内容説明
戦争で捕虜となった日本人の実像は解明が難しいテーマだった。史料は充分に存在せず元捕虜の口は重い。著者は世界各国で文献を渉猟し捕虜収容所跡を訪ねるとともに、二二〇人を越える元捕虜と遺族へ調査を重ねた。その努力の結晶ともいえる巨編。
目次
日本軍における捕虜観念の形成
空閑大隊長の自決と爆弾三勇士―美談の誕生
蜀の山道を越えて―白浜軍曹の捕虜脱走記
あゝ鶴よ―ノモンハン戦の残留捕虜たち
ノモンハン空戦に生きて―生還した宮島曹長
中国戦場の日本人捕虜
太平洋戦争期の日本人捕虜―展望
再会した捕虜同期生―酒巻和男と豊田穣の軌跡
米本土の日本人捕虜
ワレ今ヨリ自爆セントス―一空事件悲話
フェザーストン収容所の銃弾―雨降って地固まる
カウラのラッパ(上)―南忠男の死
カウラのラッパ(下)―小島正雄の場合
豪州戦域の日本兵捕虜
著者等紹介
秦郁彦[ハタイクヒコ]
1932年、山口県に生まれる。東京大学法学部卒業。ハーバード大学、コロンビア大学への留学を経て、防衛研究所教官、大蔵省財政史室長、プリンストン大学客員教授、拓殖大学、千葉大学、日本大学教授などを歴任。法学博士。93年菊池寛賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Hiroki Nishizumi
4
捕虜について調べることは極めて珍しいと思った。生きて虜囚の辱しめを受けず、という文化が元凶なことは分かるが、どうすれば負の精神構造を抜け出せるのか、そこが本当は知りたい。2022/01/25
nori
4
I imagined POW throughout history due to 白村江. But history in the book was started from 20th century. I could not learn why such crazy thought was generated by Imperial Japan, despite each topics are mentioned in detail. It is also applied for post WW II.2014/12/03
CTC
3
白村江以降の対外戦による、日本人捕虜の実態を描く。上巻はノモンハン迄と、対支戦、太平洋戦の初期。相手方をどう処遇したかも時代別に。さて、捕虜を忌む風潮はいつの頃からなのか、日清戦では生還捕虜は1名しかおらず考察しづらいが、この人は郷里から遠く離れた場所を終の住処としたそうだ。日露戦時点では確実に村八分的な雰囲気があった。捕虜を恥じる文化は徳川期に武士道として形成されたものだろうが、明治以降に多くの軍神が生まれたのと同じ理由で、俘虜は忌避されざるを得なかった。陸海軍刑法にも禁ずる規定はないのに、哀史である。2014/09/26
turutaka
0
日本人が捕虜になることをタブー視する経緯を知りたかったので絶好のテクストとなった。副題に白村江からシベリアまでとあるように日本人が捕虜となる歴史的流れを丁寧におっている。 どの章をよんでも、やはり「空気」というものから日本人は逃れることは出来ないということを強く実感。 後半の一空事件なんて、「空気」が自爆を強いるという、ある種のホラーとまでなっている。 捕虜のタブー視は戦陣訓だけではなく、日本人そのものの気質と密接に結びついているのでは無いか。2021/09/26