内容説明
鉛や錫などから黄金を創り出そうと試みた錬金術師たち。見果てぬ夢を追い続けた彼らの探究を、現代人は単なる愚行の歴史として一笑に付すことができるだろうか。奇想天外なエピソードを交えつつ、東西の錬金術の諸相を紹介し、そこに見出される魔術的思考と近代科学精神の萌芽を検討する。初刊から半世紀、先駆的名著の文庫化。
目次
仙術と哲学の混沌―中国（説話のなかで；神仙思想の背景、道教；『周易参同契』の三位一体論；『抱朴子』の世界；丹薬の服用と製造；本草学との関係；中国錬金術の発展と限界）
魔術から科学へ―西洋（アレキサンドリアの時代；イスラムの神秘と科学；中世神学と錬金術；妖術と近代科学；東と西の交流）
日本の錬金、錬丹術（神仙たちの話；四方拝から庚申待まで；舶来丹薬の流行）
著者等紹介
吉田光邦［ヨシダミツクニ］
１９２１年、愛知県生まれ。４５年、京都帝国大学理学部宇宙物理学科卒業。７７年、京都大学人文科学研究所教授、８４年、同所所長。８５年に定年退官し京都大学名誉教授。京都文化博物館館長、日本産業技術史学会の初代会長を務めた。９１年７月、死去。専門は科学技術史。文学博士（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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HANA
65
素晴らしい。錬金術というと泰西の錬金術師が密室に籠って編み出したものを解説する本が大半だが、本書はそれだけに非ず中国の練丹術から始まり西洋の錬金術のあらまし、余談としての本邦のものまで、その全体像を概説として味わえる一冊となっている。それもそれぞれの原材料や行う方法だけではなく、後世に与えた影響まで広く扱われている。西洋の錬金術が科学への道を開いたのに対して、中国が何故魔術で終わってしまったのかを追求するのは圧巻。特にそれぞれのその後を分けた原因として、ガラスの容器が注目されたのは目から鱗であった。2024/03/18
ようはん
16
西洋の錬金術も中国の煉丹術も根源は不老不死や金を求める人の欲望から来ていると読んで感じるが、結局叶わずに中毒死や破産したりする人のエピソードが多い。しかしこういった試行錯誤が近代科学の基礎になったり創作の種になったりしたので無駄では無かった、むしろ後世への功績は大きい。2021/03/10
CTC
6
14年中公文庫、初出は63年中公新書。著者は宇宙物流学から人文に転じた京大名誉教授。錬金術は狭義では卑金属を貴金属化するものだが、広義には様々な物質をより完全なものに錬成するものとされる。本書は後者も含め、更に錬金術よりも練丹術（不老不死の術）が志向された東洋も対象にする。中国の本草学だとか神農も、不老や神仙を志向しているし広義の錬金術なのだ。例えば正統的な本草書とされる『神農本草経』でも水銀は唯一不死の効能が記される。しかし東洋では存在するものは存在する、と原理が探求されず、近代科学に繋がらなかった。。2019/02/03
Kazuo
6
中国の仙術、西洋の魔術、日本の錬丹術の順番で解説が進む。東方は「不変なるもの」「変化の能力」という抽象と解釈を求めたのに対し、西方では「現実の金」が追求された。筆者の意見では、この彼我の差が西洋にのみ「科学」をもたらしたとする。現代の我々は、卑金属から貴金属を生み出そうした中世の人々の無知を嗤う。しかし、STAP細胞を信じ、「（マネーの）量的緩和を行えば、経済は改善する」と主張する中央政府と中央銀行を持つ 現在の我々日本人は、中世の錬金術を信じた人々から、どれほど遠いところまで進歩したといえるのだろうか。2015/11/07
kouki_0524
2
錬金術が自然科学に昇華した西洋とそうならなかった中国との差がガラス管の使い方にあったというのは意外な結論だったが、複雑に曲がったガラス管の中で実験しているマッドサイエンティストの図を思い浮かべると、それもうなづける。 それにしても、錬金術のように歴史的な資料もそれほど多くなさそうな分野のことをここまで調べ上げて評論してしまう著者がすごい。しかも本来の畑は物理学者というのは驚いてしまう。2015/06/17
