出版社内容情報
古池はどこにあるのか、ほんとうに蛙は飛びこんだのか……。古池の句は、三〇〇年間誤解され続けてきた。芭蕉はもっとおもしろい!
内容説明
古池や蛙飛びこむ水のおと―蕉風開眼として名高いこの句は「古池に」と一文字替えた途端、凡句となりはててしまう。「や」というたった一文字によって、芭蕉はひとつの高みに到達し、俳句は芸術となった。本書では、古池の句の真実、その後の数々の名句を詳述。創造の現場を目の当たりにするかのような興奮と感動が溢れる芭蕉論。
目次
古池に蛙は飛びこんだか
切字「や」について
古池はどこにあるか
蕉風開眼とは何か
ゆかしきは『おくのほそ道』
岩にしみ入蝉の声
一物仕立てと取り合わせ
田を植えて立ち去ったのは誰か
枯枝に烏は何羽いるか
去来的、凡兆的
病雁の夜さむに落ちて
枯野の彼方へ
古池に蛙は飛びこまなかった
著者等紹介
長谷川櫂[ハセガワカイ]
1954年(昭和29年)生まれ。俳人。朝日俳壇選者、俳句結社「古志」前主宰、「ネット投句」選者、インターネット歳時記「きごさい」代表。著書に、句集『虚空』(読売文学賞)のほか、『俳句の宇宙』(サントリー学芸賞)などの俳論、随筆・紀行、日本文化論がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たかこ
31
#読了 誕生日に読み終わった記念すべき本。こんなに面白いとは思わなかった。「古池や蛙飛びこむ水のおと」の解釈がすごい!ここまで深堀りできるなんて、なんて素晴らしいことでしょう!古池「に」ではない古池「や」、切字の「や」の重要さを知ることができてうれしい。「や」一文字で「間」が広がる。風景ではなくて心を詠んでいる。「蛙が見ずに飛びこむ音を聞いて芭蕉の心の中に古池の幻が浮かんだ」蕉風開眼の渾身の一句。「さまざまの事おもひ出す桜かな」「閑さや岩にしみ入蝉の声」どれも深い味わいになりました。2022/05/11
sibarin♪
28
なるほど、そういう解釈か…。個々それぞれの解釈があるでしょうが、どう取るかは読んだ人それぞれ、と思いつつ言われてみればそうかな、と思ってしまう。水の音を聞いてから古池が脳裏に浮かんできたという解釈。【…岩にしみ入る蝉の声】も同じ、蝉の声が聞こえたからこそ閑かさを余計に感じたと。ふーむ。私は一般的な解釈しかできてなかったからこの解釈は目からウロコだった。それに「や」には意味がないなんて…知らなかった。ただ、前半に同じことの繰り返しの文がが幾つもあって読み飛ばしたところもあった。2014/05/31
ハゲ郎
18
イヤー面白かった。解釈は人それぞれでええと思うけど、そう言うもんやと思うけど、事実と言うか検証をして見るのも面白いなぁ~て。文章で後世に残るて言うのも凄いなぁーなんてね。2014/01/16
メタボン
16
☆☆☆☆ なかなかスリリングな松尾芭蕉論。ミステリーを読むような面白さ。俳句はわずか17文字の文学で解釈は色々出来る。でもまさか蛙が飛び込んでいたのは芭蕉の概念としての古池とは思いもよらなかった。同じ論が繰り返し出てくるのは「俳句研究」の「古池の彼方へ」という連載なのでまあ止むをえまい。「草の戸も住替る代ぞひなの家」は、芭蕉庵の将来の姿だと想像して詠んだという解釈の方が絶対面白い。蕉風という俳句の世界~現実と心の風景の「取り合わせ」に文学の魅力を感じた。芭蕉自身を重ねた「病雁の夜さむに落て旅ね哉」も好き。2014/02/14
santana01
8
俳人長谷川櫂が芭蕉の代表句として知られる「古池や蛙飛び込む水のおと」の新解釈に挑んだ評論集。一読、目から鱗というか気分がスッキリしたというか、どうしてこんな古臭い句が蕉風開眼の一句と言われるのかつくづく不思議だったが、「古池や」の句についても蕉風といわれるものについても納得のいく答えが胃の腑に落ちたような気がする。上質な推理小説を読むかのような鮮やかさである。また、単なる芭蕉論ではなく切字の働きを重視した俳句論ともなっており、そういう観点から長谷川氏の句を読み返すのも一興かとも思われる。2015/01/20