内容説明
若くして、京都・西陣で呉服の小売りを始めた菱村吉蔵は、斬新な織物を開発し、高い評価を得る。しかし模造品が出回り辛酸を舐めた末、元大名の茶道具の修復をきっかけに、より高度な作品を手がけるようになった。そしてついには法隆寺の錦の復元に挑む…。
著者等紹介
宮尾登美子[ミヤオトミコ]
1926年、高知市生まれ。62年「連」で女流新人賞、73年『櫂』で太宰治賞、77年『寒椿』で女流文学賞、79年『一絃の琴』で直木賞、83年『序の舞』で吉川英治文学賞を受賞。2008年、長年の功績により菊池寛賞を受賞、2009年文化功労者。映像化、舞台化作品も多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ともくん
53
商人、職人、そして、日本人の矜恃が詰め込まれている。 ひたすらに、錦と向き合い、己に厳しく、高みを目指して行った菱村吉蔵。 その生涯は、苦しくも、満足のいくものだったのだろう。2020/07/12
エドワード
31
芸術性の高い織物で有名な龍村織物の創始者をモデルとした作品。大阪の船場で生まれた菱村𠮷蔵は、西陣で呉服商を始め、創作織物に活路を見出す。研究を始めると寝食を忘れて没頭する𠮷蔵、彼の技術は法隆寺や正倉院の古代裂の復元に大いに役立つ。そんな𠮷蔵には、仲間との多くの偉業と、妻のむら、妾のふく、使用人の仙らの身内の騒動が共存し、実にエネルギッシュな人生だ。特に𠮷蔵への報われない思慕を一生胸に抱き、懸命に𠮷蔵を支える仙の姿が印象的だ。百年前の日本、常識もかなり異なり、そんなものだったんだなあ、と感慨深い。2022/11/13
クロネコバス
21
龍村平蔵氏をモデルにした小説。最近は池井戸潤氏の夢に向かって頑張る男達を応援していましたが、その大河版でした!池井戸作品の様に手放しで応援したくなる主人公ではないものの、織物を「芸術の域」にまで地位をあげた菱村吉蔵。脇を固める3人の女性、きっちり家を守るむら、吉蔵を癒すふく、そして吉蔵への叶わぬ想いを胸に影になって奔走する仙。特に後半は仙が主人公で、仙と共に東京ー京都ー宝塚を移動。大阪船場には朝ドラの主人公も多いし、ドラマの多い土地だと再確認しました。 2017/11/13
jima
19
主人公がなんて嫌な奴だと思ったが、すごい人生だ。2017/06/17
ゆみねこ
18
京都西陣の帯屋の主人、菱村吉蔵の生涯を描く。生家の没落で一家を支えるため黒繻子の帯をぼてに入れて売り歩くところから、腕の立つ職人と出会い創作帯を次々に編み出し身代を大きくする。偽物を出されたり身内の裏切りに遭い、やがては元大名の茶道具の修復をきっかけに法隆寺の錦の復元に携わる。錦のことになると盲目的に熱中する吉蔵を支える妻むら、妾ふく、一途に思いを寄せながらも報われない仙。仙の生き方は真っ直ぐで切なかった。吉蔵が幸せならば仙は満足なのだろう。宮尾さんには珍しい男性が主人公の物語。2012/03/11