内容説明
長崎に原爆が落とされた翌日、B29搭乗員だった米兵捕虜が斬首された。見習士官として上官の命令に従った青年左田野は、戦後、絞首刑をおそれ逃亡をはかる。潜伏、残された家族への過酷な取り調べ、そして―。戦争の罪と罰を問う緊迫のノンフィクション。第54回日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
目次
橋のある町
赤茶けた「告白録」
陶器製造所の人びと
陸軍中野学校
焼き物づくり
幻の油山事件
事務主任に抜擢
死の誘惑
捜査の網
収監
横浜軍事法廷
著者等紹介
小林弘忠[コバヤシヒロタダ]
1937年、東京に生まれる。60年、早稲田大学教育学部卒業、毎日新聞東京本社に入社。92年退社後、2002年まで立教大学、武蔵野女子大学などで講師をつとめ、現在はノンフィクションを中心とした執筆活動を続ける。『逃亡―「油山事件」戦犯告白録』で第54回日本エッセイスト・クラブ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nnpusnsn1945
44
吉村昭の『遠い日の戦争』で知られる油山事件の「戦犯」佐田野修見習士官の逃亡生活と軍隊生活、そして戦後を描いている。中野学校所属後、事件に関与し、終戦後は多治見の陶器工事に勤務し、事務主任にまで昇進した。しかし、警察の高圧的な追及は家族にまで及び、佐田野氏家族を案じた上官は居場所を自白し、逮捕された。几帳面な佐田野氏は日記を残しており、日頃の業務や生活模様、戦犯処刑の新聞記事を見た心境が表れている。久々に面白いノンフィクションであった。ドラマ版の『最後の戦犯』も見てみたい。2023/01/13
Willie the Wildcat
18
最後の戦犯裁判。国際法の解釈、そして朝鮮戦争による時勢の変化。上官の命とは言え、自身の行動を悔いる。常に人への配慮、そして感謝。工場社長はもちろん、同僚の気持ちが救い。一方、戦犯間の罪の擦り付け合い、警察の取調べなど、人の本質が問われる。印象深いのが、小波の花束。嫌味ではなく、主人公を信じる強い思いの表われだろうなぁ・・・。改めて、戦犯裁判のあり方を考えさせられると共に、パール判事の言葉がいつも頭に浮かぶ。2013/08/11
駄目男
17
長崎に原爆が落とされた翌日、B29搭乗員だった米兵捕虜が斬首された。見習士官として上官の命令に従った青年左田野は、戦後、絞首刑をおそれ逃亡をはかる。潜伏、残された家族への過酷な取り調べ、そして―。戦争の罪と罰を問う緊迫のノンフィクション。これは本当に難しい問題だ。彼ら搭乗員はたった今、無辜の市民を無差別に殺害した敵の兵士なのだ。日本の法規ではこれらの犯罪を犯した敵兵は処罰の対象になっている。つまり「無差別爆撃をせず、戦時国際法に違反しない搭乗員は捕虜とし、無差別攻撃をした者は重罪犯として処断する」2022/11/08
東京には空がないというけれど・・・
5
長崎原爆の翌日に、福岡市南部の油山で米兵捕虜を斬首した見習士官。その逃亡と葛藤とBC級戦犯として逮捕、裁判、判決までが描かれたノンフィクション。本人が、息子が20歳になったときに、父親の人生を理解してくれるように託した手記がもとになっている。上官の命令は天皇陛下の命令と心得よと言われ、逆らえない状態で、米兵を斬首した本人。彼の手記をもとに解説されている。戦争の本質、軍隊の本質、そして、極限状態における人間とは何かを理解することができる。NHKのドラマ「最後の戦犯」の原作となった。2021/08/19
Ikuto Nagura
2
「遂に時は来た。今日この日を避ける様にして実は待っていたのだ。行手に光明のない闇路をよくぞ走り続けたものだ。金も地位も名誉も、私には無価値だった。隠遁の生活は所詮日陰の花、寂寞たる人生に何の未練があろう。それに、身分を偽って善意の人々を欺き、同情を買い続けることも、もうたくさんだ。巣鴨の友よ、私も行くぞ。泣き喚くことはない。これも運命の歯車の一コマに過ぎないではないか」戦争さえなければ、良心の呵責に苛まれることもなかったし、寂寞たる人生を送る必要もなかったのだ。戦争が絶対悪であることを伝える貴重な記録だ。2015/06/25