出版社内容情報
月舟町に引っ越したばかりのオーリィ君。そこで出会ったサンドイッチ店の親子や映画館の老婦人など、スープの冷めない距離にいる人々との心温まる日々を描く。
内容説明
路面電車が走る町に越して来た青年が出会う人々。商店街のはずれのサンドイッチ店「トロワ」の店主と息子。アパートの屋根裏に住むマダム。隣町の映画館「月舟シネマ」のポップコーン売り。銀幕の女優に恋をした青年は時をこえてひとりの女性とめぐり会う―。いくつもの人生がとけあった「名前のないスープ」をめぐる、ささやかであたたかい物語。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を続けてきた。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
739
東京の片隅にある、ひっそりと忘れられたかのような空間。今回は月舟町の隣に位置する桜川が物語の舞台だ。主人公はお隣に教会があるアパートに住むオーリィさん。大家の大屋さん、トロワというサンドイッチ店を営む安藤さん、その息子の律君との接点の保ち方もいい。ただ今回は元女優のあおいさんとの邂逅、そしてオーリィさんが新しいスープつくりに邁進するなど、この一連の静かな物語にしてはやや動き過ぎか。もっとも、そうはいってもスープが完成したという以外には何も起こらないのだけれど。そして、それこそが「月舟町三部作」たる所以。2021/01/29
風眠
495
吉田篤弘は妄想家だと、私は思う。作家なのだから創作家、と呼ぶのがふさわしいのだろうけど、でもやっぱり妄想家だな、って思う。教会の隣にあるアパートに住むオーリィくん。屋根裏のマダム。真面目すぎだけど、どこか可愛いサンドイッチ屋の父と息子。月舟シネマ常連のチャーミングでダンディな老婦人。ふんわりとした空気感、どこか品のある佇まい、ブレない強さ。登場する人物は素敵で優しくて、夢の中の住人のよう。だからだろうか、創作というより妄想だと感じるのは。ドラマチックな展開はない。静かに通り過ぎる日常がただ、愛おしい物語。2018/05/21
へくとぱすかる
458
2両編成の路面電車がのんびり走る街。と、くれば東京の世田谷か、さもなくば滋賀の大津だろうか。あてもなく引っ越してきて、なんとか仕事にありついたのは、小さく見えても幸福にちがいない。何事もないけれど、水彩画のように流れていく日々。サンドイッチ店とシネマ、教会の十字架という背景。それでいて銭湯の煙突がある街の物語は、ノスタルジーにあふれる時間が美しい。2019/10/30
ハイランド
352
著者の本三冊目、読了。月舟町三部作の「つむじ風食堂の夜」に続く2作目である。題名はもっと象徴的なものかと思ったら、本当に後半はスープの話だった。適度な距離感の人間関係も心地良いし、レトロな感じのする街の描写も素敵、そして何より食欲をそそる本だ。この本を読んで「豆腐と喇叭」の映画を観てみたいと思い、名無しのスープを添えて「トロワ」のサンドイッチを食べたいと渇望するも、所詮叶わぬことである。緩やかで、ちょっとお洒落な空気が楽しい、読み終えるのが勿体ないという読書体験でした。著者の本、もう少し読んでみよう。2014/09/03
mae.dat
266
月舟町・三部作の真ん中だったのですね。知らずに読んでしまいました。前作の『つむじ風食堂の夜』は未読なのですが、前提知識なくても、自然に物語の世界に入れた様に思えたのですけど。ほんわりとした世界観、悪く無かったです。でも唐突に終わってしまった。行く末が気になる事が残されたままなのですけど。次作『レインコートを着た犬』を読めばスッキリ解決できるのでしょうか。前作から読み返した方が筋が通るのでしょうか?知ってる方はお教え願いたく。少なくとも、次回作は読まねばならないと思えているのですけど。うー、もやもやする。2022/12/26