出版社内容情報
わたしいま、しあわせなのかな――夫のことをあまり好きではない。そのことに、いつ気がついたのだったか。寄り添っているのに、届かないのはなぜ。男女五人の視点で、恋愛の現実に深く分け入る長篇。
内容説明
「申し分のない」夫と、三十五年ローンのマンションに暮らすリリ。このまま一生、こういうふうに過ぎてゆくのかもしれない…。そんなとき、リリは夜の公園で九歳年下の青年に出会う―。寄り添っているのに、届かないのはなぜ。たゆたいながら確かに変わりゆく男女四人の関係を、それぞれの視点が描き出し、恋愛の現実に深く分け入る長篇小説。
著者等紹介
川上弘美[カワカミヒロミ]
1958年東京生まれ。94年「神様」でパスカル短篇文学新人賞を受賞しデビュー。96年「蛇を踏む」で第一一三回芥川賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
183
男女四人のちょっと'こじれ'た恋愛を描いた作品です。'こじれ'具合にあまりストレスを感じさせず、スラスラと読ませてしまうトコに作者さんの才能の豊かさを感じます。男女四人それぞれが強い'思い'を持っており、誰が正しくて、誰が悪いとかいうトコに重きをおいてるのではなく、自分のキモチはどうなんだ?というトコに作者さんの強い思いを感じました。本作に対しては読み手により、共感できる、できないなど賛否両論あろうかと思われます。しかし、私個人としてはひとつの作品として、ある意味ピュアな恋愛小説なのかなと思っています。2020/02/09
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
176
「申し分のない」夫、幸夫と暮らすリリ、九歳年下の青年暁、リリの親友春名の4人の関係がそれぞれの視点で描かれる。 何とはなく、でも明らかにこの本のタイトルは「夜の公園」だ。夜の、しずかな、誰もいないけど誰かがいたひそやかな気配がする、そんな場所。読み心地は淡々と心地よく、江國さんの不倫ものを読んでいる時みたいな気持ち。 流れる空気感は好きだけど、登場人物の誰にも共感ができなくて、特に春名の考えにイライラ。ラストの選択も個人的には納得いかず。なんで大人の男女の関係はこうも不倫ものが多いんだろう…読むけど。2019/01/15
masa@レビューお休み中
118
夜の公園には、夜のカフェが合う。しっとりとした夜の空気に、静寂が溶けこむ。そして、その静寂は誰にでも平等に訪れる時間であるかのように存在している。ただそこにいるだけの人。散歩をする人。自転車で走る人。デートする人。さまざまな人たちがいる。けれども、同じ場所にいるというだけで、決して同化することはない。迷える想いも、冷めた恋も、在りし日の思い出も…。ここでは、すべてが現実とは解離したものとなる。それぞれの想いは、散り散りに夜の闇に浮遊していく。気がついたら、己の手を離れて、深い夜の海へと羽ばたいていくのだ。2014/01/23
じいじ
102
久々の川上さんの恋愛小説を読んだ。3度読み返した『センセイの鞄』ほど、入れ込む小説ではなかったが面白かった。3LDKの立派なマンションで新婚生活をスタートした夫婦が、2年を過ぎて夫婦そろって不倫に走る話である。こんなシチュエーションはあり得ないだろう、と懐疑的に見ていたが「これは、意外とあるかも…」と、川上さんの文章の巧さで思わされる。じめっとしていなくて爽やかさえ感じるのは流石だ。それにしても、妻から離婚を切り出される羽目になっても「離婚はイヤだ!」と、妻に縋る夫の歯切れ悪さはいただけない。2021/01/23
ナマアタタカイカタタタキキ
86
互いに不倫している夫婦の話だが、縺れ合うというよりは、するりと結び目が解けてしまうような恋模様だった。仄かな暗さと透明感を孕んだ掴み所のない文体は著者の持ち味だが、他の作品にあるようなマジックリアリズム的な手法は今作には用いられておらず、あくまで現実世界でも起こりうる恋愛を描いている。なかなかに惨い展開ではあるものの、ソフトな語り口の為に生々しさや苛烈さは殆ど抑制されていて、そこに新鮮味を感じた。が、それはミスマッチ感と表裏一体のものなので、著者の独自性の高い世界観を堪能するなら、別の作品の方がオススメ。2021/01/03