出版社内容情報
漱石の「こころ」は近代文学の最高到達点か? 「物語のカラクリ」に通じた者だけが見た小説の新しい地平。近代文学に読み直しを迫り、明快な論旨と大胆な展開で圧倒する文芸評論。
内容説明
漱石の『こころ』は日本近代文学の最高到達点か?否。こころ=人間の内面の貧しさを露わにする記念碑にほかならぬ。一方、人間の内面という狭小世界には目もくれず独自の小宇宙を作りだした鏡花、谷崎、乱歩、足穂、久作、三島、澁澤…。「反近代」という視点で「近代文学」の読み直しを迫り、既存の「文学史」にアンチテーゼを掲げる骨太文芸評論。
目次
第1章 夏目漱石―敗北する内面
第2章 泉鏡花―内面を拒む神秘神学
第3章 谷崎潤一郎―思想なきからくり芝居
第4章 江戸川乱歩―人外境への郷愁
第5章 稲垣足穂―人間的時間からの脱却
第6章 夢野久作―自我なき迷宮の構造
第7章 三島由紀夫―“外”をめざす肉体
第8章 澁澤龍彦―観念から物質へ
第9章 山田風太郎―歴史の遠近法の破砕
第10章 村上龍―反=人間の想像的経験
第11章 筒井康隆―消滅する人間、消滅する言葉
著者等紹介
中条省平[チュウジョウショウヘイ]
1954年生まれ。学習院大学文学部フランス語圏文化学科教授。パリ大学文学博士。映画・文学・マンガ・ジャズの評論などで幅広く活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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swshght
5
「内面から遠く離れて」。この想像力が「反=近代文学」の条件だ。近代文学とは「内面」の発見だった。つまり「外面」に対する「内面」の優位と特権化。それは坪内逍遥に端を発し、夏目漱石の『こころ』で頂点に達する。中条はこの「内面」を近代文学の「逃げ道」ないし「袋小路」と捉える。そして次のように問う。「内面の特権化が近代文学をやせ細らせたのではないか」。彼は既存の近代文学史を「アナクロニズム」と「作家主義」の立場から読み直し、「反=近代文学」の系譜とその可能性を提示する。前田愛や養老孟司の文学論も合わせて読みたい。2014/08/11
うえ
3
「泉鏡花は、夢とおなじく、お化けを信じていた。超自然の内面化という近代の趨勢とは無縁だった。というより、鏡花は近代的な内面をすっぽりと欠いていたから、実在する超自然をありもしない内面に還元することなど初めから不可能な相談だったのだ。かくして、近代日本最大のお化け小説、怪作『草迷宮』が生みだされる。粉本は、平田篤胤の『稲生物怪録』で、のちに巖谷小波の『平太郎化物日記』、足穂の『山ン本五郎左衛門只今退散仕る』、水木しげるの『木槌の誘い』といった興味深い一連のヴァリエーションを生むことになる怪異の記録である」2015/08/25
amamori
2
人間のこころ(内面)のドラマの探求を主流とする近代文学史には興味がもてない、という著者。例外的に「こころ」の漱石だけは対照のために徹底的に分析して書いているが あとは アンチ内面派と著者が偏愛する作家論。鏡花、谷崎、乱歩、足穂、夢野久作、三島、澁澤、山田風太郎、村上龍、筒井康隆。2010/10/26
tekesuta
1
漱石の「こころ」についての解釈を読むと「内面」の文学とはかくも貧しきものかなどと思う。貧しいことが別に悪いわけじゃないが、この本で取り上げられた作家たちのさまざまな「反近代」の魅力はとてつもなく大きくみえる。 2012/10/13