出版社内容情報
〝味に値無し〟――明治・大正のよき時代を生きたその道の達人たちの、さりげなく味覚に託して語る人生の深奥を聞書きで綴る。〈解説〉尾崎秀樹
内容説明
歴史文学の名作『新選組始末記』で知られる著者は聞き書きの名人であり、随筆の名手であった。“味に値打ちなし”―明治・大正のよき時代を生きたその道の達人たちのさりげなく味覚に託して語る人生の深奥を聞き書きで綴る。
目次
しじみ貝の殻―子爵・石黒忠悳氏の話
蛤の藻潮蒸し―資生堂主人・福原信三氏の話
冷や飯に沢庵―増上寺大僧正・道重信教氏の話
天ぷら名人譚―俳優・伊井蓉峰氏の話
砲煙裡の食事―子爵・小笠原長生氏の話
「貝ふろ」の風情―民政党総務・榊田清兵衛氏の話
鯉の麦酒だき―伯爵・柳沢保恵氏の話
珍味伊府麺―男爵夫人・大倉久美子さんの話
西瓜切る可からず―銀座千疋屋主人・斎藤義政氏の話
うまい物づくし―伯爵・溝口直亮氏の話〔ほか〕
著者等紹介
子母沢寛[シモザワカン]
1892(明治25)年、北海道に生まれる。本名梅谷松太郎。明治大学法学部卒業。読売新聞・毎日新聞記者を勤める。1928(昭和3)年『新選組始末記』をはじめとして次々と時代小説を多数発表、代表作に『弥太郎笠』『菊五郎格子』『国定忠治』『すっ飛び駕』『駿河遊侠伝』。戦後は幕末遺臣と江戸への挽歌ともいうべき『勝海舟』『父子鷹』『おとこ鷹』『逃げ水』などを発表、1962(昭和37)年、菊池寛賞受賞。1968(昭和43)年没
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感想・レビュー
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syaori
50
新聞記者時代に書いた、様々な業界人の美味関する記事に、後年作家となった作者が人物や取材時の思い出などを付け加えるという構成。話し手には、天皇の料理番として有名な秋山徳蔵や新宿中村屋主人の娘婿となったインド人志士ボース、高村光雲などの名前も。各人が語る「うまいもの」への興味は尽きませんが、「下手味をそのまま生かし、それでいてすっきりと洗練」された文章のせいか本を閉じて残るのは気障と野暮を厭う江戸っ子気質ともいうようなもので、その切れ味で各様の主張を料理する作者の腕、流れる水のような「うまさ」を楽しみました。2019/06/19
Miho Haruke
6
歴史ものの大家が新聞記者時代取材した政治家、財界人、芸術家、華族などの、明治から大正の「食」に関する聞き書きと、作家の随筆で構成された本。初版が昭和32(1957)年ということで、出版当時でももはや歴史上の人物である人たちがうまいまずいをハキハキと語る、そして作者は彼らが勧めた料理を、あるものはまるでうまくないと斬って棄てる。といって横柄さや陰惨さはなく、読後感は明るく、健康な食欲が湧いてくる。ああ天ぷら食べたいうなぎ食べたいおでん食べたい、江戸前の料理が食べたい。ずっと読み続けたい一冊と出会った。2016/06/10
食物繊維
5
とても楽しい本でしたが、一遍には読めませんでした。お腹が空いてきてしまうので、だましだまし読んで楽しみました。お坊さんの食事はとても質素なのに、とても美味しく感じるように書かれています。天ぷらの揚げ方のこだわりなど、ゆったりした昔でないと難しいだろうなあと思ったり。楽しい読み物でした。2022/02/02
artillery203
3
古き良き時代が垣間見える。こういう本を読むと、今のジャンクフードや添加物満載の食事を考えてしまう。とにかくこいこくが食べたくなる本。2015/09/21
みなず
3
56年後に読んだ私も、美味しく、羨ましく、楽しめた!!赤坂虎屋について、子母澤氏の「落ちましたね」で、盛り返したのかそのままなのか、気になる。「珍味伊府麺」の“絶世の美人と言われたが、からだ全体にお色気が不足だったし…”には、爆笑。2013/01/29