内容説明
大正三年、田端に居を定めた巨星・芥川龍之介を慕い集う室生犀星、萩原朔太郎、堀辰雄、中野重治ら多くの俊秀たち。美術村田端をたちまち文士村に変貌させた人間芥川の魔術師的魅力に迫り、芸術家たちの濃密な交流を活写する。膨大な資料と証言でまとめあげた澄江堂サロン物語。
目次
第1章 夫婦窯
第2章 未醒蛮民
第3章 「羅生門」の作者
第4章 詩のみやこ
第5章 作家たち
第6章 隣の先生
第7章 道閑会
第8章 王さまの憂鬱
第9章 関東大震災
第10章 藍染川畔
第11章 「驢馬」の人たち
第12章 巨星墜つ
付・田端の女性たち
著者等紹介
近藤富枝[コンドウトミエ]
大正11(1922)年東京日本橋生まれ。昭和18年、東京女子大学国語専攻部卒業。文部省教学局国語科に入り教科書編纂に従事。翌19年、NHKにアナウンサーとして入局、戦後退職し、文筆活動に入る
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
142
「文壇資料」というジャンル、そして空間で捉えているという解説に、なるほどと頷いた。自然豊かで風光明媚な田端という所が、芸術家を引き寄せた。それは芥川龍之介が移り住んだことで文壇・芸術村となる。解体のきっかけは大地震の後に人が移り住んできたことと、龍之介の死。大勢いる文化人には龍之介と村ですれ違う程度の人も多かったろう。まさにそのように、龍之介はなんとなく中心に据えられてはいるものの、そこでのその時代と文壇と歴史を伝えるものとして貴重である。作者個人の好みと推量も多分にあるが、それはまあひとつの視点として。2019/03/17
Willie the Wildcat
74
波山が礎を築き、龍之介が芸術村から文士村を変換し、その存在の喪失と共に文士村も消失。様々な芸術家との交流が、龍之介の才能を更なる高みに引き上げたと推察するが、中でも犀星の存在が印象的。加えて、ヒト・モノ・カネが、自然に引き寄せられ、築かれた人脈とコミュニティ。巻末の『田端付近略図』も必見。田川水泡氏も地図に発見し、お気に入りの”うさぎや”との繋がりも?!なお、失礼は十分承知の上だが、「犀星夫人vs.龍之介夫人」の件は笑った!田端か、探索必須。ランチはもれなく浅野屋ですね。2019/09/23
白狐
17
主に芥川を中心に、田端の歴史が描かれていた。田端には初め芸術家が多く、そして作家__芥川龍之介、室生犀星、萩原朔太郎、堀辰雄、菊池寛など__様々な人が住むようになった。芥川が移ってから田端は文士村として栄えていく。本には、それに関する色々な話が詰まっていて読み応えがあった。芥川は田端の王様であった。一つの視点だけではなく、より多くの視点から見ることで人物がありありと目の前に浮かび上がってくるよう。著者は芥川のことを「下町人特有の世話好き」などと評しており、作品では見られなかった彼の素顔を見られた気がした。2016/12/08
冬見
13
田端の王様、芥川龍之介。「生真面目な秀才」とは別の「世話好きな下町町人」の一面。"田端文士村"と呼ばれる界隈は、陶芸家板谷波山が窯を築いたことから"芸術村"として始まり、芥川龍之介が家族を伴って移住してきたのを契機に"文士村"へ変貌、そしてその死からほどなくして田端はもとの何ごともない住宅地へと戻っていった。本書のすごいところは、書かれた資料だけではなく関係者へのインタビューから得た情報が織り込まれている点。生きた資料を元に田端を中心とした文壇史が一編の読み物として語られる。良書。2018/08/19
わった
10
田端に、美術関係者や文士が多く住んでいた時期があり、その間の出来事を詳細に記した本。たいへん興味深く読みました。参考資料の数とインタビューの多さが、一冊作るレベルの量ではない。大変詳しく正確に書かれていると思います。いつしか田端は、作家・芥川龍之介を中心に文士の村となり、彼が亡くなり、そして戦争で村が焼けて文士村は消失してしまいました。しかし、間違いなくここで文学の1時代が築かれ、今の時代にも残る多くの名作が生み出されました。それを実感し感動し、楽しく読めたノンフィクションでした。2020/07/10