内容説明
孤独を分かち合う七十すぎの三人の男たちを描く「喫煙コーナー」、定年と同時に妻に去られた男の心境を描く「寒牡丹」、葬儀に欠かせぬ男に、かつての上司から特別な頼みごとがきた表題作ほか全八篇。人生を静かに見つめ、生と死を慈しみをこめて描く作品集。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927年(昭和2年)、東京に生まれる。学習院大学国文科中退。同大学文芸誌『赤絵』、『文学者』などに拠って作品を発表する。66年『星への旅』で第2回太宰治賞を受賞し、会社勤めを辞めて本格的な作家活動に入る。『戦艦武蔵』『関東大震災』など一連のドキュメントで73年に第21回菊池寛賞、79年『ふぉん・しいほるとの娘』で第13回吉川英治文学賞、84年『破獄』で第36回読売文学賞・芸術選奨文部大臣賞、85年『冷い夏、熱い夏』で毎日芸術賞、94年『天狗争乱』で大仏次郎賞を、それぞれ受賞。97年より芸術院会員
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感想・レビュー
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やすらぎ
206
慌ただしい日常が終わり、虚脱感に襲われ孤独を分かち合う男達。各々の人生を貫き、無理をして、見栄を張り、笑顔を忘れ、寄り添うこともできず、それでも支え合いながら歩き続けていく。吉村昭さんは長篇を終えると短篇を書くという。小説と実体験と思われる物語、計八篇。人気の少ない落ち着く場所を探し、緩やかに繋がっていく友情のほほえみ。病を治してくれた医師が先に逝ってしまった。夜空に打ち上げられる度に、生きているという実感が胸に満ちる。少年の頃に見上げた空は今も広がっている。心に浮かぶ私の星はいつまでも消えることはない。2023/09/18
kinkin
122
八篇の短編集。冒頭の都会に住むどこにでもいる普通の女性と飲み友達になる男性を描いた「飲み友達」この本の中で一番好きだ。死期間近の弟の孤独を描いた「喫煙コーナー」著者はあとがきでいわゆる短編小説は竹の節に似ていて、それがなければ竹幹である私の長編小説は、もろくも折れてしまうだろうと語っている。長編小説が終わったあと、ちょっとした町中で起きる小さなドラマを描写し筆慣らしをしていたのだろうか。寂しさやほろ苦さをテーマにした短編はこってりとした長編を読んだあとの読者にもやすらぎを与えてくれる、そんな気がする。2022/02/12
Shoji
55
サラリーマンの定年前後の悲哀を書いた物語。物語に綴られているのは、初老を迎えた人たちが終末に向って淡々と過ごす日々。例えば、妻との別れであったり、家族の成長であったり、会社勤め時代の仲間の動静であったり。生れ落ちてから現在までの悲喜や人間模様がぐっと胸に染み入りました。良書だと思います。2018/12/22
小説を最初に書いた人にありがとう
50
吉村昭作品を初めて手に取った。定年前後のサラリーマンの悲哀を描かれた作品も多い短編集。どれも感情移入しながら楽しく読めた。文章も決して古臭くなく、綺麗な文章で読みやすかった。他にも短編集が出てるようなので読むこと楽しみ。2025/02/15
キムチ
49
短編集。氏のコアとなっている悲壮感漂う死生観は影を潜めている。いつものように、淡々と自分の想いをストレートに語り、何処かしらユーモアすら感じる場面もある。九死に一生を得た氏ならではの味わい。自伝も入っているが客観的に「初老」の男性の日常を描いており、50年余前の昭和の世界が広がる。2015/06/26