内容説明
若者の夢が世界を動かす時代は終ったのか。月ロケットアポロ11号の成功の陰で沈んでいった手作りの葦舟ラー号。熱気渦巻く新宿を舞台に、情報化社会によって加速され翻弄される現代の青春の運命を、熱い共感をもって描く四部作完結編。
著者等紹介
庄司薫[ショウジカオル]
本名・福田章二。昭和12年(1937)、東京に生まれる。日比谷高校をへて東京大学法学部卒業。昭和33年、「喪失」により第三回中央公論新人賞受賞。昭和44年、「赤頭巾ちゃん気をつけて」により第六十一回芥川賞受賞
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感想・レビュー
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masa
14
薫くん四部作の四作目。最後だけあってとても読み応えがあった。読んでみると当時の若者に支持されたということが理解できる。みんなの幸せを考え全ての人に優しさを持つ薫くんの物語、またいつか読み返そうと思う。もっと早く、もっと若い頃に触れておきたかったと後悔する作品。2020/08/03
佐島楓
13
薫くんのテンションがいつもと違う。ちょっと対象から距離を置こうとしている。大人になったということなのか・・・。青春の煩悶と時代に翻弄される少年たちを描いた四部作完結。若いときに誰かとこんなふうに議論してみたかったと少し思う。2011/11/23
rokubrain
8
行きつくところ、若いころに燃えた正義感はいったい何だったんだろう、ということを年が過ぎて「大人」に収まってしまってからいつか回想することを予想していたからこそ、どうしても記録に留めたかったんじゃないか。 「解釈するだけで自己完結するチャチなコマネズミ」にならないように。 家柄、貧富、能力、学歴などのピラミッドの階層から自由になるために。 「理想を抱くこと自体が不適応をもたらすようなこの20世紀後半の状況」は今にも当てはまるような気がする。 まさに茹でガエルが進行しているかのよう。2018/03/15
Hatann
5
初読。もはや浪人臭を感じなくなった主人公が七月を迎える。高校時代の同級生の自殺未遂をきっかけに新宿を徘徊する。若者の無垢な他者救済のための試みは外部搾取及び内部崩壊を通じて限界に突き当たる。何事もなかったかのようにアポロ11号は月面に着陸する。それぞれ真剣でありながら、真剣だからこそ敗れ去る。新宿御苑で眠り込んだ翌朝に「素晴らしい夜明けだぞ」と揺さぶられて起床した。前三作はほぼ同時代に発表されたが、最終作は数年ののちに何かを総括するように出版された。作者はその後に退却したため、起床後のことは分からない。2020/03/26
コウ
4
四部作ラストはスタートがはやかった。あまりの急展開に100ページくらいまでなかなか頭に入ってこず…それを乗り越え読了したときには、なにか、ひとつ時代の波に乗った気にさせる。若者のシンボルとともに時代は巡っているのかもしれない。「自分が誰かにとって親友かどうかなんて、自分で分ると思うかい?」――賢く優しい薫サン。解説で山崎氏が言うように“すべてを賢明に観察しながら、にもかかわらず、すべての人物ひとりひとりに熱い共感を示すのである。”“相手を愛しながら眺める”そんな姿勢の彼が読み手にも温かさを与えてくれる。2017/04/30