内容説明
言葉がほとんど絵画のような種類の慰めを持ってきてくれる、画家がくれるような休息を書物からもらうことがある―。本をこよなく愛した著者が、最後に遺した読書日記。バロウズ、タブッキ、ブローデル、ヴェイユ、池沢夏樹など、読む歓びを教えてくれる極上の本とめぐりあえる一冊。
目次
1 書評から(『北の愛人』(マルグリット・デュラス)
『シカゴ育ち』(スチュアート・ダイベック)
『物語作家の技法―よみがえる子供時代』(フェルナンド・サバテール) ほか)
2 好きな本たち(『アリス・B・トクラスの自伝』を読む;まるでゲームのようなはなし―ヴェッキアーノにタブッキを訪ねて;新しい救済の可能性を示唆する物語―池沢夏樹『スティル・ライフ』 ほか)
3 読書日記(『一期一会・さくらの花』『オニチャ』『錬金術師通り』;『コラージュ』『カラヴァッジオ』『寂しい声』;『フェリーニを読む』『天皇の逝く国で』『詩は友人を数える方法』 ほか)
著者等紹介
須賀敦子[スガアツコ]
1929年兵庫県生まれ。聖心女子大学卒業後、パリ、ローマに留学。61年、ミラノで結婚、日本文学の紹介・翻訳に携わる。夫の死後、71年帰国。上智大学比較文化学部教授。初めての作品集『ミラノ霧の風景』で、91年講談社エッセイ賞、女流文学賞を受賞。1998年3月没
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感想・レビュー
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コットン
75
少々古いが広範囲なジャンルの日本及び海外の読書案内で小説以外に詩集や写真集や絵画又は映画関連もあり紹介の仕方が上手いので読みたくなる本が増えそう。『カラヴァッジオ 生涯と全作品』など数冊は読んでみたい2024/02/19
ネギっ子gen
58
【出不精の私は、機嫌の悪いハリネズミみたいに、狭い小さな箱に籠ったきり、じっと暮らしてきたような気がする】古典から現代文学まで、観想と記憶が織りなす世界を制御の利いた文体で綴られた、書評と読書日記。1998年刊。巻末に初出一覧。<たった一年だけ籍を置いた大学院だったが、三田の校庭で友人たちと立ち話をしていると、だれかが、あ、西脇さんだ、と息をつめるようにしてささやくことがあった。詩人が、あのかがやかしい詩行を書きとどめた詩人が、自分とおなじ地面を横切っていく、そう考えただけで、私は足がふるえた>と―― ⇒2025/03/14
寛生
56
【図書館】須賀の文章から漂う感覚が何とも言えない独特の色を放つ。翻訳者としての使命が本人にはどんなにか鮮明であっても、それがコトバとコトバの遣いとして、時には神と人間との通訳のように翻弄する旧約の天使のように、第三者の目には見えにくい存在なのだろう。本書も須賀が他者が書いた本を媒体としてのものだが、人間にとって大切なものが、例えば、美がいかに《つかめない》が伝わってくる。建物とその中に住む人間との関係。夫の死に川端が言及して、そこから小説が始まるという。結婚式で、人を育てるということの意味など。 2014/07/27
aika
47
透徹した考察それ自体がひとつの物語であるかのような書評集でした。初めて知る本ばかりで、翻訳者への敬意が随所に感じられます。自身の著作とはひと味違う一面が見られる一方で、タブッキと実際に会ったときのエピソードや、「コルシア書店」や「ガッティ」の文字を見た時は嬉しさを感じました。これまで隔たりがあった科学と文学をひとつの世界として著した池澤夏樹さんへの思いも印象的です。夫を1年前に亡くした須賀さんに、川端康成が「それが小説なんだ。そこから小説がはじまるんです。」と語った場面には言い様のない震えを感じました。2021/06/17
Gotoran
45
久方振りに須賀敦子作品を満喫した。本書の中で、著者は、「言葉がほとんど絵画のような種類の慰めを持ってきてくれる、画家がくれるような休息を書物からもらうことがある」と書かれており、本をこよなく愛した著者が、最後に遺した読書日記でもある。バロウズ、タブッキ、ブローデル、ヴェイユ、池澤夏樹など、読む歓びを教えてくれる極上の著作と巡り合える一冊だった。夫々の作品に寄り添うように、ページをめくる著者の指先の温かさが感じられる文言に情感が溢れている。また取り上げられている幾つかの作品に当たってみたくなった。 2023/10/21