内容説明
真夏の光と陶酔があふれる広場、通り、建物、カフェ…。ローマからアッシジ、サン・ジミニャーノ、シエナ、フィレンツェ、そしてシチリアへと、美と祝祭の国の町々を巡る、甘美なる旅の記憶。カラー写真27点収録。
目次
美しい夏の行方―中部イタリア旅の断章から
海に向かって、夏―シチリアの旅から
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
173
作家、辻邦生氏の中部イタリア、シチリア紀行。彼はイタリアに来ると、地上に生きていることをしみじみと実感するそうだ。それはとってもよくわかる。なにしろ、Mangiare Cantare Amoreの国。ほんとうにイタリアにいるだけで、身体の内から喜びがふつふつと湧いてくる。旅のスタイルにも同感。例えば、ウフィツィ美術館に入場するまでに2時間並んだっていいのだ。それは、名画を見ることと、時には等価なのだ。また、シエナのカンポ広場の、あのゆがみ具合やすり鉢のような褶曲。あれこそがまさにイタリアにいる喜びなのだ。2014/09/24
まーくん
58
「美しい夏の行方」は中部イタリア、「海に向かって、夏」はシチリア。仏文学者辻邦生による’80年代の紀行二編。タイトルが何とも情緒的。雑誌「マリ・クレール」のために書下ろし。その方面、明るくないが既に廃刊となったファッション誌らしい。きっと高級?イタリア紀行は数多あれどシチリアはちょっと珍しい。以前、高山博著「中世シチリア王国」を読み、その後、訪れる機会を得たシチリア。本書ではギリシャ、フェニキア関連の遺跡の話しが主で、ノルマン王国やイスラム文化にまつわる部分は少なかったのが残念。写真は文句なくきれい!2019/04/02
ケロリーヌ@ベルばら同盟
56
「スペイン広場の真夏ほど、強烈に"今"を感じさせるものはない。」恍惚たる浄福感と馥郁たる香気とで、読む毎に読者を至福の境地へと誘う辻邦生氏の、本当の生の輝きに触れる二つのイタリア紀行。アッシジの町の単純で素朴な色彩と質感に触れ、只管天と地に結びつく静かな生活を希求し、光と影が織り成す回廊の陽盛りに永劫の音楽を聴く。根源からの啓示のような、シチリアの旺盛な生命力と昏い血の翳り。古代の遺跡に萌え出る新たな作品の萌芽。新しい風の誕生を言祝ぐ美しい夏の行方。読者は、残り香を追って、芳醇な物語の世界へと旅立つのだ。2021/07/25
財布にジャック
51
小説家が書く旅行記なので、さすが観点が違うなぁと感心しましたが、もっと素人が書いた庶民的な旅行記のほうが実際に旅行をする時の参考にはなるので、あくまでも辻さんカラーのイタリア旅行記でした。しかし、シチリアでの食あたりを、マフィアに毒を盛られたかもと妄想するところは笑えました。シチリア島といえば、ゴッドファーザーと結びつけちゃうのは私と一緒なんだなぁと嬉しくなりました。そして、私の大好きなアッシジとシエナも訪れていて、写真も素敵でした。2012/04/19
penguin-blue
42
単なるイタリアの紀行文というよりも、辻さんのイタリアに対する恋文を読んでいるかのよう。美しい文章のそこここに、憧れのイタリアに対する純粋かつ熱い思いが溢れ出てちょっと気恥ずかしくなるほど。外国が近く、膨大な量の情報に翻弄される今の私達にはある意味共有するのが難しい熱なのかもしれない。次にイタリアを訪れる時はこの本を携え、その憧れを傾けて書かれただろう「春の戴冠」をいつか読み返したい。2018/04/06