内容説明
鋭い史観による独特の発想と、優しい心に映った内戦下のベトナムの姿―。複雑な国際関係と政治の力学について、善意の知識人が誰一人として言及しなかった深い洞察がここにある。南ベトナム各地を歩き、直接眼にふれたナマの感覚から、人間そのものの問題に切りこむ、知的な刺激力に満ちた「第一級の思想書」である。
目次
兵器という思想
機械運動
外人師団
朝鮮半島との酷似
世界政略の虚構
ベトナム人がいなくなるまで
葦と「たおやめ」ぶり
輪廻の思想
亡霊が同居する町
ウズラの魔法〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shoji
73
奥付をみると1974年に初版。40年以上も前である。しかも、まだベトナム戦争の最中である。 当時のベトナムがどんな国で人々はどんな暮らしをしていたか、私には想像もつかないが、ベトナムという国や人のアイデンティティーについて司馬遼太郎なりに綴っているのである。 時に近隣アジア諸国のアイデンティティーも織り交ぜて書いている。 40年以上前の文章にも関わらず、ベトナムの国情も今とは異なっているにも関わらず、惹きつけてやまない。2016/12/05
ちゃとら
57
以前、ベトナム戦争を追った写真家の展覧会に行った時、この本に出会い購入し長い間積んでいた。ベトナムに興味があったが、この本は深かく広かった。司馬遼太郎さんの人柄も溢れていて、いつかベトナム旅行に行く前にもう一度読みたい本でした。2020/04/14
優希
46
ベトナム戦争中に戦地を訪れた司馬さんの思考を覗くことができました。戦下にありながらもしなやかに生きる力はどこから来たのでしょうね。司馬史観での考察が興味深かったです。現在ではウクライナ問題の真っ最中ですが、司馬さんが生きていたらどのような見方をするのかまで考えました。2022/05/03
朝日堂
20
ベトナム人を通して語られる「人間の本性」を描いた本。とりわけ仏教が日本に定着するために必要だった思想的操作の指摘がおもしろい。早くも平安初期に、土着神より外来神である仏のほうが上であるとし、土着の神々もまた人間と同様迷うとする。かつ、神々は仏法をよろこび、仏法を尊崇するとする。土着神が、仏法をよろこんで菩薩号をうけたり(たとえば八幡大菩薩)権現号をうけたり(蔵王大権現)する。さらに天照大神は大日如来が日本に垂迹した姿だというような本地垂迹説がうまれる。神仏習合において実に神は仏より格下であった。釈迦強し。2013/07/09
時代
18
司馬さんがベトナムに出向きその民族性や戦禍の情勢について想いを馳せる。実際には四十年前の事情だが非常にためになった。ベトナム戦争のコトトナリの片鱗に触れた。なるほど、そういう事だったのか。ベトナム民族の微笑み返しが印象的だった△2016/11/27