内容説明
女の作った物語の中に閉じ込められた男と、男の作った時代の中に閉じ込められた女―光源氏と紫式部。虚は実となり、実は虚を紡ぐ。本書は、物語を書く女の物語として、改めて始められる。
目次
雲隠
匂宮
紅梅
竹河
橋姫
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
LUNE MER
20
窯変の中でも異色の一冊。読者によっては拒絶反応すら示しそうなのが「雲隠」。原文では題名のみで本文なしの帖(光源氏の死を暗示)なのだが、ここで突如、一人称が光源氏から紫式部に替わり、執筆背景などが語られ出すというメタな展開に。光源氏の視点で描かれているという本作の最大の特徴を継続することが出来なくなり、どうするのが良いかという迷走が具現化されている印象を受ける。そして続く匂宮〜竹河では女房の語りという原文への回帰がなされるのだが、そもそも物語として余り面白味のない三帖なのでなかなか読み進められなかった。2022/02/08
かふ
15
『窯変~』を最初に読んだときに光源氏の一人称で死後はどうすんだろうと興味があったが「雲隠」の紫式部との入れ替えが見事過ぎた。「雲隠」が『窯変~』のすべてかもしれないと思ってしまったほど、この展開はスリリングだった。メタフィクション好きには溜まらない展開だと思う。それも原作あってのことなんだが。橋本治は単なる翻訳ではなくて批評としての小説になっている。モダンなのが「ウェイリー訳」ならポストモダン小説。その後の匂宮三帖は、なんで大君と中君で混乱するように書いたのかと思って、恋愛の綾なのかなと。2024/07/20
みほ
3
語り手が変わると一気につまらない。最後まで買い揃えてしまったけれど、もう進めないなぁ。2014/01/28
NORI
2
読みやすい。その帖開始時の年齢付き人物相関図が記載されており、理解の助けになる。
madhatter
2
再読。八巻で指摘される「現実を生きる男」「物語を生きる女」の伏線が生かされる。「雲隠」以降の宇治十帖は、いわば、女の理屈で再構成された物語。正直、インパクトは源氏の語りによる十巻までの方が強かった。だが、宇治十帖は、軸となる男が二分裂し、相対的に女の意志が強調されるきらいがあると個人的には捉えている。殊に、浮舟という女の弱さを語るには、やはり宰相の君・弁という二人の女の力が必要なんだろうなとも思う。2012/08/10