感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syota
37
橋本源氏ますます快調。例えば「花宴」で、右大臣家の宴に招かれた光君が直衣で出かける場面。原作では軽く流している(詳述しなくても当時の読者にはピンときたのだろう)が、橋本さんはなぜ直衣なのかを詳細に書き込んでいる。宮中でないので正装はありえないが、他の参加者が右大臣の権勢におもねり、正装に準じる第1級の略礼装に身を包む中で、光君だけは直衣に布袴というほとんど平服に近い最低限の略礼装で乗り込んでいく。光君の気骨と反抗心を如実に表した場面だが、今回の橋本訳で初めて理解することができた。得難い現代語訳だと思う。2024/03/31
かふ
21
ウィエリー版と田辺聖子版と同時に読んでいるのだが人間関係がドロドロしたところは橋本治が一番面白い。「葵」は六上御息所が物の怪になって葵の上に祟るのだが、御息所の娘は伊勢の斎宮であり、加茂神社の斎宮となるのが大宮の娘であり、帝の交代によって左大臣家に権力が移るのである。その京に対して地方の神々の力を得る光源氏はスサノオウ的な貴種流離譚なのだと思う。そのなかで怨霊となった六条御息所との呪術廻戦のような相聞のやり取り。結局、葵の上を殺してしまうのは紫の上という正妻を得るためだったのかと思った。2024/03/08
LUNE MER
12
しかし何度読んでも内容が盛り沢山な葵の帖。窯変でも別れの際に光源氏と葵の上の心が通じ合う(通じ合いかける)ような描写がなされていた。このシーンは人によって解釈が様々あるのがある意味面白い。ここまですれ違い、心を開こうとしなかった葵の上が最後の最後で心を開きかけるという展開の美しさに異論はないが、原文を読んでもそのニュアンスを見出すことは私は出来ず(正確には、そういう解釈を否定しきれないものの、相当程度の確度をもってその解釈に特定することが出来ず)、紫式部の中では如何だったのだろうと気になる箇所。2021/08/02
NY
9
劇的な事件(特に六条御息所の網代車が左大臣家の従者に傷めつけられ、横向きに放置されるシーンは印象的!)が増え、展開は面白くなってきた。一方で、光源氏の女性遍歴は今で言う「ゲス」であり、一人称で心境を饒舌に語られるとやや参ってしまう。三位中将や惟光などの男たちや、王命婦など脇役の本音の方がよほど軽妙で面白い。思いつきだが、いっそ、『嵐が丘』など西洋古典の手法を取り入れて、王命婦などに語り部をさせたほうが(源氏には語らせない方が)、源氏の心理をよく描けたかもしれない。2020/05/02
Jack Amano
7
再読。わがままし放題で、反省のない傲慢な光源氏も、流石に正妻葵の上の死により多少は人間的に成長したようにも見えてくる。まだまだではありますが。光源氏が人間としてどう成長していくのかが見ものです。2024/03/02