出版社内容情報
老中の指嗾による三方国替え。苛酷な運命に抗し、荘内領民は大挙江戸に上り強訴、遂に将軍裁可を覆す。天保期の義民一揆の顛末。〈解説〉武蔵野次郎
内容説明
時の老中水野忠邦の指嗾による三方国替え。越後長岡転封の幕命に抗し、羽州荘内領民は「百姓たりといえども二君に仕えず」の幟を掲げて大挙して江戸にのぼり幕閣に強訴、ついに将軍裁可を覆し、善政藩主を守り抜く。天保期荘内を震撼させた義民一揆の始終。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
195
この物語は、他の藤沢作品とはかなりその趣を異にする。物語全体は天保11(1840)年に荘内領で実際に起こった国換騒動を小説の形で再現したものである。一方には時の老中、水野忠邦をはじめとした幕閣が、また対極には荘内藩主、酒井忠器をはじめとした藩士たちがいるのだが、この物語の主人公はあくまでも荘内領の農民たちの群像である。徳川幕府崩壊までも、もう20数年しかなかった時の事であった。明治維新へのムーヴメントと、そのことの真の意味の再考を促す作品。2012/05/02
AICHAN
34
図書館本。天保の大飢饉のとき羽州庄内藩では餓死者を出さなかった。善政により庄内藩は表高を軽く超える実石高を上げていたし、農民救済政策が整えられていたからだ。ところが幕府は庄内藩へ転封を命じてきた。騒然となる庄内藩。騒然となったのは武家ばかりではなかった。当時の農民は殿様が代わっても気にしなかったのだが、庄内藩の農民たちは別だった。団結して幕府に迫った。事実を元にしているのでノンフィクション風ではあるが、さすが藤沢さんで、事実の羅列で読者を飽きさせるようなまねはしない。ぐいぐい読ませてくれた。2017/05/03
田中寛一
20
羽州荘内領民が藩主国替え阻止の天保一揆(天保義民)の騒動が描かれる。老中水野忠邦の三方国替の思惑から当時は世継ぎ以外でも国替もあったようだ。百姓たちの国替え阻止の決死の行動から藩主の善政が伺える。その百姓たちを動かすいろいろな力も働いてはいるようだが。思い通りにならなかった川越藩主の思いはどうだったのだろう。藩の違い、領主の違いによって百姓たちの生活も随分違いもあったのだろう。故郷の歴史を描いた作者も子ども時代に聞いていたイメージとは違うものも見えたという。歴史をどの立場で見るかが問われる。2019/10/21
kameyomi
17
この大作に挑戦してしまった。理不尽な三方国替えに抗う領民達を描く。何しろ様々な身分の登場人物が多くて苦労したが、藤沢周平の上手さで興味深く読ませてもらった。著者の後書きにもあるが、百姓側の知恵に歴史の真実を思う。それにしても、歴史に疎い者の為に、登場人物の説明(何々村の誰々など)を添えた版を出してくれるとありがたい気がする。2023/08/31
ブラックジャケット
16
徳川家斉のゴリ押しで始まった国替え。老中水野忠邦は荘内藩と川越藩に長岡藩を加えた三方国替えを提案した。ワイロ政治が横行する時代、庄内藩は寝耳の水で藩主酒井忠器は苦慮した。ところが庄内藩は表の石高より内実が良く、天明の飢饉の際には、放出米や銭の貸し付けで、藩内から餓死者を出さないで乗り切った。富商や百姓の支持は高く、江戸表で百姓自身が駕籠訴を実行した。他国や江戸の庄内藩びいきを作った。政治に百姓自身が関わった希有な例だ。忠君の天保義民と称えられた時代もあったが、著者の筆致はクールで群像劇を描き切った。 2023/08/23