内容説明
三週間ほど前から、わたしは奇妙な日記をつけ始めた―。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しのなかで終わった、わたしたちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描く、芥川賞作家の初めての長篇小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ろくせい@やまもとかねよし
285
”普通”でないことこそが理であると感じた読後。背が伸びない弟への好奇の目を「世の中にはどれだけ残酷な人間が多いか」と喝破する。一般に弱者は強者に対して理解する。しかし本書は、弱者は社会の共通性から溢れているだけだと表す。他方、尊重すべきは無意識に欲する情緒への愛おしさだと表現。食べたいこと、年を重ねること、眠りたいこと。これらの情動に理由などないが、「もろいから余計においしく、でも独り占めにしすぎると胸が苦しい」ものだと。林真理子さんの解説で納得。小川さんは「無意識が意図をはっきりとつき動かしている」と。2021/09/21
mae.dat
277
洋子さんの初長編だそうで。いつも似た様な事を言わなければ成らない感じですが、淡々とした日常に表裏一体と成った異質の世界ですね。その異質と言うのも、決定的に問題を生じるものでは無く。と言うか、ちょっと変と気付きつつも、あまり気に留めていないみたいですよね。文筆家であれば拘るのは当然の事かも知れませんが、洋子さんのそれ迄に知る作品より、独特の比喩表現に挑戦されている様に思ったな。それは決して派手なものでは無いのですが。ただ単に、今迄は見落とし続けて来ただけの可能性もあるけど……そんな事は無いと信じたい。2023/07/20
ヴェネツィア
274
これが、小川洋子の最初の長編小説らしいのだが、やや未消化な感じが残るように思う。まず、主人公の「わたし」は、一貫して「異常な食欲」に取りつかれているのだが、そのことと小説のテーマとの結びつきが弱く、必然性に乏しく感じられること。また、「わたし」の恋人である吉田さんの存在感があまりにも希薄であること。弟の航平に向ける慈しみに溢れた眼差しや、エンディング近くのオーロラのイメージは限りなく美しいのだが。「わたし」の大学の4年間はあっけなく過ぎ去って行こうとするが、それでもやはりそれは「シュガータイム」なのだ。2012/08/07
KAZOO
180
小川さんの最初の長編のようです。長編といっても、章ごとに分かれているので何か連作小説を読んでいる感じがしました。小川さんの最近の作品と比べると、なんというかとらえどころのないような感じがします。江國さんの「きらきらひかる」をおもいだしました。食べ物の話のところはおいしそうな感じです。2017/03/26
エドワード
110
かおるはある時、奇妙な食欲に襲われる。ほとんど一日中食べることについて考えている。そこで、食べたものを日記に書くことにする。というふうに物語は始まる。アルバイト先のホテルの宴会場で、残されたアイスクリームを食べる時の高揚感。サンシャインマーケットという実に魅力的な食品市場。こんな市場を歩きながら、買物をせずにいることができようか。物語は吉田という恋人との別れで一応終わるようだが、果たして彼女の食欲は正常に戻った-シュガータイムは終わった-のだろうか。2011/08/03
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