内容説明
駿河屋の一人娘お艶と奉公人新助は雪の夜駈落ちした。幸せを求めた道行きだった筈が。気ままな新生活を愉しむ女と破滅への意識の中で悪を重ねてゆく男。「殺人とはこれほど楽な仕事か」―。文学とは何か、芸術とは何かを探求した「金色の死」併載。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
290
表題作は大正4年、谷崎29歳の作品。谷崎の小説は、多かれ少なかれ通俗性を免れないのだが(それはかならずしもマイナスいうわけでもない)それにしても本編は通俗臭が強い。後半の「蔦屋」でのくだりなどは、もうほとんど世話物歌舞伎か新派劇の世界である。江戸情緒を引きずる点では荷風に比肩されるだろうが、谷崎には荷風の恬淡さはなく、むしろ回顧芝居めくのである。お艶は、西欧文学の類例に当てはめるならば、全くファンム・ファタルそのものである。しかも、彼女はまさに妖艶な毒婦を演じて見せるのだが、これも見方を変えれば⇒2025/03/19
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
121
女に理想しか見ない貴方の括弧付きの『愛』を、最初は嬉しく思った日々もありました。段々とそれが重苦しく次第に煩わしく思うようにさえなった時点で、きっと私は貴方から離れるべきだったのでしょう。私が聖女であったなら。でもそんなに優しくもなく打算的な私に『惚れた』(こちらも括弧付きなのがミソ)のが運の尽き。思う存分利用し尽くして差しあげましょう。私のかいなの代わりにまめまめしく働く貴方のこと私も『愛して』差しあげます。逆恨みはやめて。私はもう次のstageにいるの。死にたいと言うなら勝手に独りで死んでちょうだい。2020/12/29
ケイ
84
『台所太平記』が面白く、もう1冊と手に取る『お艶殺し』。『髪結新三』的展開になるのか、近松門左衛門的な情念があふれるのかと期待するも、どうもズンと響いてこない。圓朝のような落語での語りや、歌舞伎の演者の表情が入ったものと比べてしまうのはフェアじゃないだろうが、だらしなさばかりを受け取ってしまうのよね。谷崎の場合は、女について感じるイロをどこか笑いにするところがなけりゃ、私には受け取りにくいな。2023/08/11
優希
49
いつ殺され、いつ死ぬか。2編とも「死」が見えるからこそ残酷な美しさを放っているのだと思います。2022/07/11
Shoji
39
『お艶殺し』と『金色の死』の二篇が収録されています。『お艶殺し』は江戸時代の男と女の痴話ばなしから始まる殺人事件です。まるで文楽の「世話物」の様相です。そう考えると面白かった。『金色の死』は芸術を語っていますが、どうも私には屁理屈にしか聞こえませんでした。それがいい所なんでしょう、きっと。あらびっくり、そんなラストが待っています。どちらも読後感は悪くないです。2021/04/03