内容説明
心塞ぐ思いの日々。人びとをどこか拒否する心。ながく「私」にはりついていて、決して離れようとはしない、執拗な鬱。日記という形式で日常を追いながら、日日の出来事とそれを感受する心の戦き、あらがいのさまを微細に観察し、記録することで、最上の文学に熟成させた名作。谷崎潤一郎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
amanon
3
約二十年ぶりの再読。不安を抱えつつも、穏やかな日々を綴ったものという印象があったのだけれど、実は想像していた以上にヘビーな生活だったのでは?という気にさせられた。夫婦間の大きな波風は描かれていないものの、度々語り手が鬱に苛まれること、また、長期の休みにしか戻ってこない子供達の帰省に、大きな期待をかけていることなど、声に出して言えない気詰まりが巣食っていたのでは?という気にさせられる。いみじくも当時の著者と同年代である者として、残り少ない人生に対する焦りのようなものがかなりリアルに感じられる気がした。2022/06/09
格
2
ある人物のある行動を創作する、ということは、その人物に流れる時を動かすということでもあるだろう。全くの創作である場合、それは0から1へというような、未来への指向を持っているとも言えそうだ。気鬱に苛まれ、その指向を持てなくなっている作家がものを書こうとするとき、その眼は過去へと向かう。しかし過去から出発したとして、現在に至るにはやはり時が流れている。作家がそれを誤算していたとは思わない。むしろその流れを捉えるのが本懐だったろうけれども、多分執筆当初想定していたよりは苦しい仕事だったのではないかと思わされる→2024/07/27
讃壽鐵朗
1
病的な感じがしてついて行けないが、どこか不思議な印象の残る作品2017/06/06