感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナクマ
36
満鉄の人、敗戦前後の逃避行。危難の場にあってユーモアが人心を支える場面が印象深い。さて明朗頑健であることは尊いふるまいだと思えど「人間の運不運は、ほんのわずかな一瞬にかかっている」のもまた事実。まして戦時の運命は神にも解らぬ。列に並ぶ/並ばぬの偶然が生死を分つ時もある。すべては結果なのだと考えてしまった。◉井上靖(金沢時代)のひとつ年下で「お互いに相手のすべてを知っている」関係性。◉「尖鋭的な連中は厄介きわまる大和魂を発揮し、自決を主張して気負っているが、こんな辺境の山中で死んでも誰が知ってくれるだろう」2023/01/31
さっと
9
ソ連と国境を接する北満の奥地に生活物資、医療、娯楽等を届けていた満鉄厚生船。大戦末期、ソ連の侵攻により厚生船は自沈の処置をとり、乗組員たちの決死の避難行が始まる。着の身着のまま、食うや食わずの長旅は壮絶だが、開拓団の集団自決のような例を見るに、幸運としかいいようがない避難行である。私の出身地も山形からの満州引揚の開拓団を中心とした戦後開拓によって出来たので、そういう幸運な人たちからもらった命である。戦争末期の極めて個人的な体験談であるが、満鉄の事業史、北満からの引揚譚として貴重な記録だと思う。2023/03/21