感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
296
物語のコード進行は例えてみれば「序破急」のそれであろう。大木の恋は既に十数年前に終わっている。そこから物語は始まるのだが、最初は静かな回想が悔恨を込めて語られる。音子の形象もまた果敢無げで過去から逃れることができない。後半は世代を代えて、大木の息子の太一郎とけい子の物語となる。とりわけ急調子を帯びてくる終盤からのけい子を描く川端の筆は冴えに冴える。読者もまた(少なくても男性の読者は)けい子の魔性に吸い寄せられてしまいそうな迫真力だ。しかも、物語がどこに向かうのかもわからないままに一気に結末に向かっていく。2015/07/03
遥かなる想い
259
昭和36年に書かれた、 川端康成のこの本を読んで いるとひどく懐かしい 気持ちになるのはなぜなの だろう。 この物語が紡ぎ出す昭和の 京都のたたずまいは、 ひどく静かで物悲しい。 大木と音子の24年ぶりの 再会も慎み深く、愛憎を 越えた古い愛が心地よい… 音子の弟子けい子が企てる 復讐の誘惑も、なぜか 哀しく心に染みる。 17歳の破綻から40歳まで の日々が、音子の 秘めやかな心根が、不思議な清冽さとともに全編に 漂う、昭和の本だった。2015/07/25
まふ
118
初読。31歳の妻子ある作家大木年雄は16歳の上野音子に妊娠させて捨て、その経緯を小説に書いてベストセラーとなった。捨てられた音子は未婚のまま修行を積み高名な日本画家となった。音子の住込み弟子である若いけい子は音子のために復讐を誓う。冗談ともとれるその言行は最後にとんでもない結果を惹き起こす…。最近外国文学の異物的世界にどっぷりつかっているため、日本文化の「ど真ん中」である川端文学の世界は新鮮で瑞々しかった。やはり日本文学はいい。G1000作品の選定委員は正しい選択をしたと思う。2024/01/31
優希
118
流麗な日本語を操りながら、過去と現在を結びつける危うい恋愛が描かれていきます。かつて妻子ある作家・大木と音子の悲恋が、24年の歳月を経て弟子・けい子との同性愛によって蘇るのが美しくも妖しく感じました。けい子と関係する度に思い出される記憶。そこに漂う背徳的な哀しみ。独特の世界観が独特の輝きを放っていました。登場人物たちのドロドロした関係が京都の風景によってぼかされるのが川端康成の芸術性だと思います。愛に捕らえられたように生きる哀しみの色濃さを見ているようでした。2016/01/18
しゅう
110
そもそもの始まりは、中年作家の大木が下心満々で昔の彼女に会おうとしたことからだった。もちろんもっと遡れば、大木が16の音子と交際したことに起因するのだが。いずれにしても大木はモンスターけい子と出会ってしまったのだ。けい子は絵画で成功を収めた音子の内弟子であり同性愛者。それは、しばしば師匠の小指を痛くなるくらい噛む描写に現れている。そして蠱惑的な肢体は、大木とその息子を虜にする。最後に何が起こったか、いくつかの解釈に分かれると思うが、私はとにかく怖い小説だと思った。2025/10/20




