出版社内容情報
中国の老獪、欧米の野心、日本の熱狂--息づまる日本史のドラマを明らかに。最新研究をもとに満州事変史をとらえ直した注目作。
内容説明
中国の老獪、欧米の野心、国民の熱狂―息づまるドラマを明らかに。最新研究をもとに満州事変への道をとらえ直す。
目次
日露戦争直後の米中との関係と「大衆」の登場
第一次大戦期の日中関係(対華21カ条要求問題)
中国国内政治と日本(陸軍)
日中間の人的交流の拡大
日中間のトラブル=抗議・暴行事件・日貨排斥運動
日露戦争後の日米関係
ワシントン会議(1921~22)
排日移民法(1924)
国権回収運動(1923年以降)
国共合作、5・30事件(1925)
北伐(1926)、南京事件(1927)
済南事件(1928)
張作霖爆殺事件(1928)
中ソ戦争(1929)
「ワシントン会議の精神」と中国(関税・不平等条約問題)
済南事件解決交渉に見る日中関係調整の困難性
日貨排斥運動の実態
長沙暴動
満州事変直前
結びに
著者等紹介
筒井清忠[ツツイキヨタダ]
1948(昭和23)年、大分市に生まれる。帝京大学文学部長、大学院文学研究科長。東京財団上席研究員。京都大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程単位取得退学ののち、京都大学文学部教授などを経て、現職。文学博士。専門は日本近現代史、歴史社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
58
再読。著者が太平洋戦争→日中戦争→満州事変と遡る中で、昭和史の根源を改めて遡るメモとして書き始めたものとか。したがって読みやすいコンパクトな大正~昭和初期外交史となっている。特に大正期が「デモクラシー」で語られることが多い中、出先軍部の勝手な行動が始まっていたことや、ワシントン条約に縛られないロシアの動向など、他書で指摘の少ない内容が興味深かった。基本的に自身が一次史料に当たった研究書というよりは、様々な研究から抽出した内容であり、著者の視点での整理と言える。細かいところに疑問はあるが、フェアな1冊。2022/12/06
禿童子
31
満州事変という日本陸軍の謀略事件そのものではなく、それに至るまでの外交と中国のナショナリズムの錯綜した時系列を整理して解きほぐした画期的な本だと思います。日露戦争の遺産としての遼東半島と満鉄沿線の利権、それをめぐるイギリスとアメリカとの関係、第一次世界大戦中の対華二十一か条による抗日気運の醸成、関税自主権・治外法権撤廃などの中国の利権回収運動、対中国に関するワシントン会議。実際の交渉と駆け引き、大正デモクラシーで生まれた「大衆」と、それを煽る新聞メディア、国際世論の逆風など全体の構図が明瞭に分かりました。2019/09/25
skunk_c
25
外交史を軸にした満州事変前夜史で、いわゆる幣原協調外交の特質と限界を軸に展開。重光葵を極めて高く評価している。また、著者の近著『戦前日本のポピュリズム』に発展していく、当時の覚醒しつつある大衆意識と、過度に煽る新聞の問題にも目配せされ、バランスの良い内容だった。ワシントンでの9ヶ国条約による協調体制を先に崩したのは、国民党贔屓のアメリカと、中国に大きな権益を持つイギリスで、日本は協調を守ることに固執しすぎたため失敗した面があるという指摘は新鮮。ただ、万宝山事件を除き朝鮮の話題がないのはどうなのだろう。2018/11/11
MUNEKAZ
14
満州事変に至るまでの動きを、主に外交面から紹介する。特に「ワシントン体制」と「幣原外交」についてが簡潔にまとめてあり、1920年代の国際協調の時代を概観するのにもちょうど良い。意外にも日本は列強の協調関係に最も意を砕いた国であり、中国の横車(もちろん条約改正という「大儀」があるのだが)と英米の翻意により、むしろ貧乏くじを引かされた感も。その中で国民の間に対中不信感が強まり、ついに暴発するという流れ。著者は、日本が自らの正統性を上手く対外的にアピールできなかった点を指摘する。これは現代にも通ずる部分である。2022/12/13
ケニオミ
13
太平洋戦争へ至る出発点としての満州事変。その満州事変が勃発した理由を考察したのが本書です。とても分かりやすく纏められています。そのため、敢えて僕から内容を言及する必要はないのですが、ただ理由の一つとして挙げられていた「大国の責任」での重光葵の次の言葉が強く印象に残りました。「日本は国家も国民も成金風の吹くにまかせて、気位のみ高くなって、内容実力はこれに伴わなかった。日本の地位は躍進したが、日本は、個人も国家も、謙譲なる態度と努力とによってのみ大成するものである、という極めて見易き道理を忘却してしまった」2015/11/07