出版社内容情報
奈良時代末期に成立した『万葉集』には律令国家・日本の理想を表す側面があった。数々の秀歌を紹介・解説し、その実像を明かす。
内容説明
奈良時代の後期に成立し、短歌・長歌など四五一六首を収める『万葉集』。歴代天皇や皇族、宮廷貴族、律令官僚がおもな作者だ。他方で防人、東国の農民、遊女といった庶民の歌も含む。幅広い階層が詠んだ、きわめて日本的な「国民文学」のイメージで語られるが、それははたして妥当か。古代日本が範を仰いだ中国の詩文の色濃い影響をどう見るべきか。代表的な歌々を紹介・解説しつつ、現存最古の歌集の実像を明らかにする。
目次
第1章 東アジアの漢字文化圏の文学
第2章 宮廷の文学
第3章 律令官人の文学
第4章 京と地方をつなぐ文学
第5章 『万葉集』のかたちと成り立ち
第6章 『万葉集』の本質は何か
終章 偉大なる文化遺産のゆくえ
著者等紹介
上野誠[ウエノマコト]
1960年(昭和35年)、福岡県に生まれる。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(文学)。奈良大学文学部国文学科教授。研究テーマは万葉挽歌の史的研究、万葉文化論。日本民俗学会研究奨励賞、上代文学会賞、角川財団学芸賞、奈良新聞文化賞、立命館白川静記念東洋文字文化賞、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
77
先日「万葉学者、墓をしまい母を送る」を読んで、そのお人柄が心に残った上野誠先生による「万葉集講義」。これまでのステレオタイプな解釈(「素朴で大らかな歌を集めた歌集」「日本文化の原点」「天皇から庶民までの作品が収録された平等主義」「防人歌は不服従の抵抗詩」)が否定され、万葉集とは、漢字文化の受容によって成立し、宮廷文学の特質と律令官人の精神性によって育まれ、京と地方との文化交流を促進したものだと再定義される。確かに、先生による口語訳からは、交流や共感という観点で作品を読み解こうとする優しい心が伝わってくる。2020/11/03
Shoji
31
万葉集の研究者による、万葉集の意義の概観です。非常にシンプルな切り口。東アジアの漢字文化圏の文学である、宮廷文学である、律令官人文学である、京と地方をつなぐ文学である。なるほど。ストンと腹落ちしました。2023/07/24
サケ太
28
万葉集が気になってくる。奈良時代に作られた日本に現存する最古の歌集。という認識だけだったのですが、まさしく講義、という形で万葉集について学ぶことが出来る。漢字の導入により始まった「歴史」の記録。東アジアの辺境により始まった歌集。当時の個人、文化、情景を知るための歌。それが日記の様な役割を果たし、歴史を振り返るための歌集となる。歌によって作られたアルバム。というのは、全く発想になかった。『石走る 垂水の上へ さわらびの 萌出づる春に なりにけるかな』当時の情景、東西の文化交流を感じさせる歌が抜粋されている。2020/12/20
内藤銀ねず
22
巻末の参考文献に、歌人は折口信夫だけ。正岡子規も斎藤茂吉も、川田順も入ってない。令和の時代になって、参考に足るだけの「まともな研究」をしたと見なされたのが折口信夫だけと考えると複雑なものがあるなぁ。この本は万葉集の最新の研究成果を分かりやすく教えてくれる。日本文学史でたびたび発生した「万葉回帰」の正体にも触れられていたり、「世界史の中の万葉集」を意識させられたり、なるほどこれは歌人では説けない万葉集講義というほかなし。最近の学者さんも、実に元気があって素晴らしい。単なる「令和」便乗本ではない良書。2020/12/29
shinano
17
万葉集とは・・・なかなかに教養書です。その成立過程と成立年代とは東アジア漢字文化圏に仲間入りした日本の歴史的背景にある。日本という単独国家内での文化人類学的な見地だけではないのがよくわかるアカデミックない一冊でした。文字表記による口伝されていた『歌』の記録化が大和朝廷の進める中国に倣った律令制度に淵源がある。それは中央官人の地方赴任による文字(漢字)の普及があって、地方知識人への都文化である和歌の拡がりと地方人の都出仕での交流で、宮廷歌(個人家歌集など)と地方歌(防人歌や東歌)の収集が起こる⇒万葉集だ2021/07/16