内容説明
ヨーロッパ文明揺籃の地である古代ギリシャの輝きは、神話の世界そのままに、人類史の栄光として今も憧憬の的であり続けている。一方で現在のギリシャは、経済危機にあえぐバルカンの一小国であり、EUの劣等生だ。オスマン帝国からの独立後、ギリシャ国民は、偉大すぎる過去に囚われると同時に、列強の思惑に翻弄されてきた。この“辺境の地”の数奇な歴史を掘り起こすことで、彼の国の今が浮かび上がる。
目次
第1章 独立戦争と列強の政治力学(一八二一‐三二)
第2章 コンスタンティノープル獲得の夢(一八三四‐一九二三)
第3章 国家を引き裂く言語
第4章 闘う政治家ヴェニゼロスの時代(一九一〇‐三五)
第5章 「兄弟殺し」―第二次世界大戦とその後(一九四〇‐七四)
第6章 国境の外のギリシャ人
終章 現代のギリシャ
著者等紹介
村田奈々子[ムラタナナコ]
1968(昭和43)年、青森県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。同大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。ニューヨーク大学大学院歴史学科博士課程修了。PhD.現在、法政大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mitei
40
ギリシャに限らずなぜこの国はこんななんだろ?と思ったら歴史を振り返ると過去にも同じような選択を選んでるんだなと思う。因果応報というか歴史は繰り返すというか面白いなと思った。2012/04/02
fseigojp
25
すさまじい内戦があったなんて知らんかった こことかトルコがソ連への防波堤だったのか2015/10/27
Miyoshi Hirotaka
19
近代は母語や文化に対する忠誠を必要とした。ヨーロッパ文明の揺籃の地であるギリシアは、民族、宗教、言語が長い間に何度も撹拌され、人類史の栄光とされる古代文明との連続性は絶たれた。ギリシア領内ですら純正語と民衆語の使用を巡って対立。10世紀に移住して旧ソ連領内に孤立した集団は別言語を話す。宗教は古代の多神教がキリスト教とイスラム教に上書きされた。一方で、地理的要衝にある小国。文明の起源を求める列強の親ギリシア主義と帝国主義戦略に翻弄された。アイデンティティの確立に汲々としている間にEUの劣等生に地位が固定化。2022/06/05
文公
19
独立を目指した際には、これまでに地理的・民族的に統一された国としての歴史がないという矛盾があり、独立後は、正教徒として、ロミィ(ローマ人)として生きてきた自分達と、異教の神々を信仰していながらヨーロッパ文明の燦たる光として存在した古代ギリシャ人が、同じなのかというアイデンティティーの葛藤に悩まされてきた。その後も、英米露などの大国に翻弄され続けているギリシャの姿を見て、ペルシャからエウロパを守った古代ギリシャと同じなのかと思ってしまい、これまでの自分のギリシャ像が変わった。2021/05/29
ジュンジュン
14
世界史に冠たる古代ギリシャの栄光。近代ギリシャの歴史はその眩いばかりの光が生み出した影との戦いだ。いっそナショナリズムに目覚め、自らの手で独立を勝ち取ったなら、ここまで苦しまなかっただろう。だが現実は大国の思惑で与えられたにすぎない。ともかくも家(国)は作られた(1830年)。ここからの歳月は、この家に住む別々の人間が”ホントの家族”になる為に費やされた時間。ときに兄弟殺しで傷つき、ときに破産の憂き目にあいながら、それでもギリシャは「家族の食卓」を目指す。2023/04/01