内容説明
九世紀のモラヴィア王国の誕生以来、歴史に名を現わすチェコ。栄華を誇った中世のチェコ王国は、そののち、ハプスブルク家に引き継がれ、さらに豊かな文化を生み出した。二十世紀に至って、近代的な共和国として生まれ変わったのち、第二次世界大戦後の共産化によって沈滞の時代を迎えるが、ビロード革命で再出発した。ロマンティックな景観の背後に刻印された歴史を、各時代を象徴する人物のエピソードを核に叙述する。
目次
第1章 幻のキリスト教国モラヴィア―キュリロスとメトディオスの遠大な計画
第2章 王家のために生きた聖女―聖人アネシュカとその時代
第3章 皇帝の住む都として―カレル四世とプラハ
第4章 「異端者」から「民族の英雄」へ―教会改革者フスの業績と遺産
第5章 貴族たちの栄華―ペルンシュテイン一族の盛衰
第6章 書籍づくりに捧げた生涯―プラハの出版業者イジー・メラントリフ
第7章 大学は誰のものか―プラハ大学管轄権をめぐる大騒動
第8章 大作曲家を迎えて―モーツァルトとプラハの幸福な出会い
第9章 博覧会に賭けた人たち―チェコの内国博覧会
第10章 「同居」した人々、そしていなくなった人々―スロヴァキア人、ドイツ人、ユダヤ人
著者等紹介
薩摩秀登[サツマヒデト]
1959年(昭和34年)、東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程修了。明治大学経営学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
72
チェコという国家の枠組みができはじめた時代から、鍵となる人物の評伝をひとつの柱としながら、その歴史像を浮かび上がらせている。ヨーロッパの中央にあるため、特に神聖ローマ帝国の支配下に長くあり、その結果カトリックが優勢なのだが、そこにヤン・フスという「異端者」が出て、しかもその思想が単純に排除されたわけでないところに、このチェコという「国」の懐の深さを感じた。著者自身が近現代は専門外というように、19世紀以降、とりわけ20世紀については極めてあっさりと記述。でも「物語」シリーズとしては適当な内容と思う。2022/05/22
健
19
チェコスロヴァキアは1918年に建国したが、チェコ自体は800年頃のモラヴィア王国に起源を発しているそうだ。そこからのチェコの歴史について各時代を象徴する人物のエピソードを積み重ねながら叙述されていて、まさに物語風で興味深く読み進めることが出来た。教会改革の章ではフス戦争について記されていたが、画家のミュシャが全20作の『スラヴ叙事詩』という大作の中でその戦争の様子を描いており、本書を読んであの素晴らしい作品群の歴史的背景があらためて分かった感じで面白かった。2022/07/17
coolflat
18
チェコという国はその長い歴史の中で、しばしば他の国と何らかの形で手を組んできた。神聖ローマ帝国の一部となったり、オーストリアやハンガリーと同君連合を結んだりしてきた。国家としてのチェコは9世紀から10世紀にかけて姿を現し(モラヴィア王国)、14世紀に中世王国としての頂点(ベーメン王・神聖ローマ皇帝カール4世)を迎えた。15世紀になるとフス戦争という一種の宗教戦争が起こり、この国は一転して動乱の時代に突入した。そして16世紀から20世紀初頭まで、チェコはオーストリアのハプスブルク王朝の統治下に置かれた。2020/07/04
ふぁきべ
13
チェコがプラハを中心としたボヘミア(チェコ)とブルノを中心としたモラヴィアから構成される国で、古くはボヘミア王国として独立を保ち、その後はハプスブルク帝国の支配に入り、第一次大戦後のハプスブルク解体で独立した、というあたりまでは知っていたが、カトリックとプロテスタントの対立などチェコの歴史におけるディテールを学ぶことができた。それにしても、なぜチェコ人はこうも窓から人を放り投げるのが好きなのか・・・この本で出てくるだけでも3回窓から人を投げる事件が起きている→2020/08/08
しゅん
12
時代ごとに特定の人物にフォーカスして記述スタイルが目線を明確にできて、キリスト教権力と地域権力との綱引き、文化(出版やオペラ、博覧会など)と政治との関係性など、多くの事象に敷衍できる話題の歴史例が知れるのがありがたい。宗教改革者フスの処刑が持つ者と持たざる者の対立から生まれた結果だと知ったのも収穫。2020/04/04