内容説明
心はどのようにして誕生したのか。この難問を解くキーワードは「記憶」。記憶を持つことで過去と現在の照合が可能となり、それまで瞬間のみを生きてきた生物が時間と空間を獲得した、と著者は仮説を立てる。さらには快・不快という原初の感情が芽生え、物事の因果関係を把握することで、本能によらず自らの意志で行動する自由を得た―。これまで人文科学の領域とされてきた「心」に、生物学の観点からアプローチを試みる。
目次
第1章 問題のありか
第2章 心の原点をたずねる
第3章 「世界」とは何か
第4章 心のはたらく「場」
第5章 心の世界を覗きみる
第6章 心の未来はどうなるか
著者等紹介
木下清一郎[キノシタセイイチロウ]
1925年(大正14年)、大阪府に生まれる。東京大学理学部動物学科卒業。東京大学理学部教授、同大学理学部付属臨海実験所長、埼玉医科大学医学部教授などを歴任。東京大学名誉教授、埼玉医科大学名誉教授。理学博士。専攻、発生生物学
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感想・レビュー
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ねこ
94
著者は理学部と医学部の名誉教授で有り、そんな知の巨人が「心の起源」についてアプローチしていく。凡夫の私には心とは何か?など抽象的な事柄を推察し、仮説をたて、立証して行く事を繰り返し理解を深める理学的な解釈でこの新書の中で展開し完結させること自体が驚愕でした。…仮説として、物質世界の中に生物世界がありその中に心の世界があるから始まり、生物世界の規範則は自然淘汰による進化であるが、心の世界の規範則は?(愛か?)…心の世界を超えた超越者の世界に入らなければ分からないかも…既に人類はそこに入りかけている…?2024/10/26
KAZOO
26
生物学者による心理学範疇の文献です。読み友さんのレビューを見て読む気になりました。文系の人とは結構異なる分析の仕方で興味深く読みました。生物学系とはいうもののそんなに難しくはなく、「世界」や「「場」という視点からの解明も文系よりの観点で判りやすい気がしました。2014/12/07
bapaksejahtera
11
心とは個体の思考の中で生体的安定に依存し、記憶を最大の梃子に、心を持つと見做す自分以外の他の個体や個体群を対象として、それらへの対処待遇の根拠となる一連の思考体系で、強く感情を伴う物、と私なら安易に定義するのだが、本書では自然科学的生物学的により明確な根拠を基に、哲学的に一連の思索経緯を提示する。「心」を分析する上で記憶や思考についての論理的な分析を提示し、実に明快でかつ心洗われる内容。記憶や心の世界の成立に関する記載の過程で分類学的記述もあるが、本書では発生的な或いは進化的な特異点の記述がない。やや残念2022/04/07
J
9
★★★☆☆ 我々人間は、物質世界、生物世界、心の世界の中に生きていて、この3つの世界は、それぞれが入れ子構造になっていると言う。物質世界に対するビックバン、生物世界に対する核酸のように、心の世界の始まりは、記憶と統合する能力にあったと言う。面白い視点だし、論理的には納得いくものだが、もう少し深掘りして知りたかった。最後の章の心の未来は、なんだかよくわからなかった。2024/10/27
izw
7
心の起源を探るアプローチが変わっている。物質から生物が生まれるときに自己複製する核酸の出現という特異点があった。生物に心が生じるためにも何か特異点があり、異質な世界を開いたと仮定し、その条件を突き詰めていこうとしている。世界が開かれるためには、特異点、基本要素、基本原理、自己展開の4条件が要請されるが、生物で解明されている条件を確認の上、記憶が時空、論理、感情を誕生させる場となることから、心の世界が開かれる条件を順次探っていく旅が始まる。個体の心の後で社会の心を考察しているが、若干息切れ気味か。2019/09/25