内容説明
一篇の詩が、苦境から脱出するきっかけになったり、人情の奥行きをかいま見せたりすることは、誰しも経験するだろう。そんな、心に働きかけてくる詩を知れば知るほど、人生は豊かになる。本書は、記紀万葉のいにしえから近現代までの、日本語ならではの美しい言葉の数々を紹介するエッセイである。古今東西の文学・芸術に精通した著者が、みずからの体験を回想しつつ、四季折々の詩歌味読のコツを伝授する。
目次
春の涙
花の散ったあと
花にまさりし君
蕪村のアンニュイ
いざくちづけむ君が面
波郷のプラタナス
夕ぐれの立原道造
五月のなかへ死にゆく母
ゴッホの糸杉と短歌
みじか夜の蕪村〔ほか〕
著者等紹介
芳賀徹[ハガトオル]
1931年(昭和6年)、山形市に生まれる。東京大学教養学部教養学科(フランス分科)卒業。同大学院比較文学比較文化課程修了。東京大学教養学部教授、国際日本文化研究センター教授、大正大学教授を経て、現在、京都造形芸術大学学長。専攻、比較文学・近代日本比較文化史。文学博士
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感想・レビュー
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みつ
19
折に触れ何度も手に取った本。日経新聞日曜版の連載されたもので、「詩歌」といいつつ『門』のような小説の断片、立原道造の手紙の一節も含む。著者の文自体が美しいばかりでなく、作品へのほれ込みようが溢れ、詩と一体化して感銘を与える。例をふたつだけ。①「ひさしぶりに立原道造を読むと、それらがみな、それこそ夕焼け空のレース雲のようになつかしく心に呼びかけてくる。「くらい風のにほひが、ひろげた本を‥‥‥」とは、そのまま昔の、立原に読み耽る私の五月の夕ぐれのことだった。」(p18)。②(三ヶ島葭子の歌➡️2023/09/21
あきあかね
16
四季の移ろいに沿って、古今東西の詩歌がバトンを渡すように緩やかな連関を持って紹介されている。心動かされたページにはドッグイアをつけるのだが、ほとんど全てのページに折り目をつけることになってしまった。 ヴェルレーヌの「落葉」やラルボーの「幼なごころ」など、先日読んだ著者の壮年期の『みだれ髪の系譜』で取り上げられていた作品も多く見られ、晩年になっても、心の琴線に触れた数多の文章があたたかく著者の心を包んでいるように思えた。その代表は蕪村であろう。この世でもっとも美しい短詩と称してよいと著者の言う⇒2025/03/22
しずかな午後
8
比較文学者・芳賀徹による、日本の詩歌をめぐるエッセイ集。もとは新聞連載ゆえ、一つ一つは短いが、引用される詩歌の素晴らしさと、それを味わう鑑賞文の美しさには惚れ惚れする。取り上げられる作品も特色があって王朝和歌などはあまり無い。①上田敏・荷風などによる翻訳詩、②芭蕉・蕪村・一茶などの俳諧、③明治大正の小学校唱歌、④与謝野晶子・山川登美子・橋本多佳子などの女性歌人・俳人、などが特に取り上げられる。この審美眼が素晴らしい。本当に美しい文章に満ちていて、読んでいてとても気持ちが良かった。2023/09/15
Mimi Ichinohe
5
ほぼ全てのページに印がついている愛読書。詩歌紹介のエッセイで、詩歌は輝いていて、文章は麗しい。表題について「魂の究極のよりどころは、この詩歌の森のうちにこそあるのかもしれぬ。」とあり、同感です。著者の学識が深く、世界中の詩歌の系列や広がりの知見が記されていて「あのあれはそういう…」という発見。また数々の詩歌のエピソードの面白さ。美しさを表現するときに借りてくることばがまた美しいという壮麗さ。一文字もあますことなく心の栄養になる本でした。2022/04/08
ぷほは
3
読み終わるのが勿体なくて、ゆっくりゆっくり時間をかけて読んでいったが、2016年ももうすぐ終わるし、20代最後の年末と共にこの本も一旦は終えることとしよう。新聞に800字程度の分量で連載されていた小さなコラム集で、古今東西の詩画・詩歌が惜しみなく撒き散らされ、その時空のパノラマに魅惑され続けた。漢詩もいい、狂歌もいい、訳詩もいい、俳句も短歌も、やはりいい。来世で読もうと思っていた本ばかり出てきて、何度生まれ変わろうとも敵いそうにないが、また幾度なりとも挑めばいいのだろう。この森は私を飽きさせることがない。2016/12/31