内容説明
日本には現在もなお、無尽蔵と言える古文書が未発見・未調査のまま眠っている。戦後の混乱期に、漁村文書を収集・整理し、資料館設立を夢見る壮大な計画があった。全国から大量の文書が借用されたものの、しかし、事業は打ち切りとなってしまう。後始末を託された著者は、40年の歳月をかけ、調査・返却を果たすが、その過程で、自らの民衆観・歴史観に大きな変更を迫られる。戦後歴史学を牽引した泰斗による史学史の貴重な一齣。
目次
第1章 挫折した壮大な夢
第2章 朝鮮半島の近さと遠さ―対馬
第3章 海夫と湖の世界―霞ヶ浦・北浦
第4章 海の領主―二神家と二神島
第5章 奥能登と時国家の調査
第6章 奥能登と時国家から学び得たこと
第7章 阪神大震災で消えた小山家文書―紀州
第8章 陸前への旅―気仙沼・唐桑
第9章 阿部善雄氏の足跡
第10章 佐渡と若狭の海村文書
第11章 禍が転じて福に―備中真鍋島
第12章 返却の旅の終わり―出雲・徳島・中央水産研究所
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はっせー
126
再読した!フィールドワークの重要性を再確認することが出来た!戦後すぐに出来た研究室が借りてきた古文書を返す話である。ただのエッセイではなく学術的な話も豊富であった。驚いたことは江戸時代において百姓=農民ではない事実。また水呑百姓=貧困ではない事実。この2つを知ることが出来たのが古文書である。百姓の中には船を使って商売をする者もいれば水呑の商人もいる。古文書にはその地域の在り方が記されている。歴史とは偉人を追いかけるものではなくその時代の何気ない日常を追うと違った世界が広がるということを実感した!2020/08/31
おさむ
32
まさに題名通りの顛末記。しかし、天下の網野善彦さんをはじめ学者さんも全国各地で古文書を借りまくりながら、返却を失念していたという所が人間臭い。整理整頓されていない学者さんの机上を思い出しました笑。「海の民」の存在を知らしめた人達だけあり、資料の出所は対馬、奥能登、瀬戸内、紀州、気仙沼、佐渡、出雲‥多岐にわたります。ただ、本人がいみじくも吐露しているように、自らの学説の一部には観念的な「物語」も含まれていたのは事実なんでしょう。2018/04/08
tom
22
網野善彦の書いたもの、面白そうなので、図書館で借りて来て積読中。古文が出て来て、読むのに難儀しているところ。老化頭には少々無理そうでもあり、それならと借りて来たのがこの本。スルスルと読める。まあ、現代文で書いているから読むのは簡単。そして書いているのは研究者の仁義と倫理。簡単にいえば、借りたものは返さなきゃという単純なことがら。研究のために、地方の旧家に残されている文書を借り出した。でも、箱に収められた文書がうず高く積み上げられたままになっている。これを返すため、全国を行脚したという話。2023/12/19
白隠禅師ファン
15
資料館を作るというプロジェクトのため、その代表者(網野の上司)が集めた古文書が、プロジェクトの挫折により、借りパク状態となってしまい、網野氏がその文書を元の持ち主に返しに行くという内容です。今後の歴史学の教訓のために、皆読むべき本だと思いました。2024/11/05
とみぃ
15
この本は、かつて月島にあった水産研究所の分室で行われた事業、つまり全国各地の漁村の古文書を借用したり、寄贈してもらったりして収集、整理することで、後世に伝えようとする事業の後始末の記とのこと。全国各地の家々や機関から借用した文書が、事業の破綻によって未返却のまま残されてしまい、それをその事業に参加していた著者がはるか後になって返却してゆく。史資料に触れる人たちは、この失敗史から多くを学ばなければいけないなと思うと同時に、史資料を死蔵させることなく活かすこと、その大切さとリスクとをふたつながらに思った。2019/08/01