内容説明
時代を越えてフィリピン史に通底しているのは、民族抵抗の精神である。それがフィリピン人意識として浮上してこなかったのは、政治と教会がそれを押しつぶし、覆いかくしてきたからである。これまでのフィリピン史はこの精神の連続した存在に十分な評価を与えてこなかった。スペインの武装宣教船団来航後の長い植民地時代を通じて、西欧と闘い続けたアジア唯一の戦闘的民族の軌跡に、本書は肯定的な光を当てるものである。
目次
フィリピンの歴史を遡上する
盗まれた楽園
カトリック宣教と原住民
全民族の抵抗運動へ
中国系メスティーソの勃興と抵抗
フィリピン革命
アメリカのフィリピン占領
「友愛的同化」の虚と実
1930年代の民族主義の軌跡
日本軍のフィリピン占領とエリートの“対日協力”〔ほか〕
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
69
すでに出版から30年近く経つので、少し古くなっているが、フィリピンの、特に近現代政治史を理解するのには手頃な本だ。著者がジャーナリスト出身であるため、歯切れの良い文章で読みやすい。また、豊富な取材に基づいていて、文献研究だけの書とはひと味違うものになっている。ただ、やはりスペイン統治下の社会構造とかはカトリックが大きな意味を持っていたことは分かるのだが、ちょっとイメージしづらかった。また、ミンダナオのプランテーションなどの話はほぼ捨象。したがって読んだ印象はルソン島中心の歴史に思えた。他書との併読が必要。2024/08/06
fseigojp
13
スペイン人の到来以前の歴史が皆無に等しいところが、逆にこの国の悲惨さを物語っている2015/08/05
coolflat
12
フィリピンの歴史はマゼラン回航以後から始まる。それ以前の記録はほとんど残されていないためだ。なおマゼラン以降は、スペイン→米国→日本→米国と、常に侵略された歴史であった。28頁。エンコミエンダ制度はハイチ、キューバなどで始まり、次いでメキシコ、ペルーなどで実施された。この制度は貢税徴収とキリスト教布教のため、フィリピン征服に功績のあった軍人、民間人、修道会に広大な地域を委託するものだと説明された。しかしそれは建前にすぎず、制度の最大の狙いは、全国から貢税を集め、植民地経営の費用を現地で調達する事であった。2016/10/29
shimashimaon
6
学生時代にフィリピンに交換留学していました。それが理由ではなく、スペイン語の勉強とスペイン史への興味から辿り着いた本です。冒頭スペイン以前の固有の文化社会の存在を示す「ラグナ銅板碑文」に興奮する。しかしその後は正直、ピープルズパワー、エドサ革命まではやや退屈でした。あとがきを読むと著者のフィリピン理解の深さがわかります。エドサ革命を含めてカトリシズムがフィリピン精神の支柱であると理解してきたのですが、それは民族主義精神の発現にとっては足枷であった。我が国の儒教や仏教とどう違うのでしょう。興味が湧きました。2024/09/29
富士さん
6
物語シリーズ再読中。スペイン以前の文字資料の発見から説き起こして、どこでも不毛なスペイン支配、うまく行ってしまったから問題だったアメリカ支配、通り過ぎただけの日本支配を経て、腐敗と葛藤の独立と、一連の歴史があくまでもフィリピン目線で描かれています。長らく植民地支配を受けていた地域の歴史が抵抗史にならざるを得ないのはわかりますが、社会史寄りの関心があるものとしてはもう少し普通の生活も知りたかった気がします。その点、英語との二重言語問題とアメリカ文化へのあこがれの醸成についての記述は興味深いものがありました。2024/04/23
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