内容説明
一九七一年七月ニクソン米大統領は世界の意表をついて訪中を発表、翌年二月歴史的な北京訪問を敢行し対中関係正常化のレールを敷いた。そのためソ連は一夜にして二正面作戦の脅威に直面した。これはニクソンの大戦略であり、彼の対中政策は正真正銘のニクソン・ブランドである。対中外交には彼の全人格的な特徴と戦略的思考が凝縮されている。本書は晩年まで米政界に外交と安全保障上の戦略的助言を与えた政治家の人間研究である。
目次
第1章 リチャード・ニクソンの精神形成
第2章 ニクソンの中国観確立までの道程
第3章 ダイナミックな戦略論
第4章 ついに「上海コミュニケ」を発表
第5章 「チャイナ・カード」論の原点
第6章 ニクソン外交に照らす日本外交の危うさ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
TS10
12
ニクソンの人格形成と対中政策について叙述する。マッカーシーズムの煽動者としての印象が強いニクソンだが、中華人民共和国との国交回復がいずれ必要になることは副大統領時代から認識していたようだ。北ベトナムが中ソ対立を利用して双方からより多くの支援を引き出しているとの分析や、中国をソ連との対立に集中させるため、沖縄から核兵器を撤去し、南ベトナムからの撤退を敢行したニクソンの政策は彗眼としか言いようがない。関与政策が時代遅れとなった現在でも尚、こうした戦略的な思考は重要であろう。2025/05/05
Shori
4
ウォーターゲート事件の悪印象が強すぎたが、だいぶ偏った見方だったことに気づかされる。リベラルメディアとの対決という意味ではトランプも同じだけど、戦略思考の観点からレベルが違うと感じた。ディールと外交のスケールは全く異なる。ちなみに対中戦略はニクソン主導というのも発見。2017/01/31
おらひらお
3
1996年初版。ニクソンという稀代の政治家の伝記的一冊です。ニクソンの先祖から語りだされていて面白い一冊ですが、米中関係の記述に差し込まれた日米関係の記述が興味深いです。核抜きの沖縄返還は、対中関係改善のためのメッセージ的内容であったという見解は初めて知りました・・・。外交は奥が深いですね。あと、アメリカは日本が台頭しないようにうまくコントロールしていることも再確認できました。個人的には、この前読んだ『ケネディ』よりも面白く感じました。今度は『レーガン』を読もうと思います。2013/05/22
バルジ
2
ニクソンの外交戦略をその生い立ちから探り対中政策に絞って論じた一冊。日本外交への痛烈な批判も含まれていて面白い。本書でニクソンは類稀なる戦略的思考を持つ極めて優れた外交指導者として描かれるニクソンは中国を国際秩序の中に組み入れうことでソ連への防壁とし経済発展による民主化を期待した。いわゆる関与政策によって中国の変革をも企図したその構想は現在から見るとあまりに楽観的な予測でもある。だが二国間ではなく複数のプレイヤーから物事を眺め戦略を組み立てるその透徹した思考は外交だけでなくビジネスの世界でも役立つだろう。2019/08/05
預かりマウス
2
標題だけではわからないが、本書はニクソンの外交戦略、それもほとんど専ら対中外交に絞って分析したもので、それ以外の施策についてはほとんど何も書かれていない(ニクソンが大統領になるまでの経歴については比較的詳しい記載がある)。また時系列に沿った記載でもないが、内容はわかりやすい。話の軸は、対中政策についてはキッシンジャーではなくニクソン自身が主導権を握っていたというものである。アメリカの外交のスケールの大きさと日本の外交の小ささの対比なども書かれており興味深い。2019/02/03