内容説明
さほど問題なく日本社会に適応しているかのようにいわれる在日韓国・朝鮮人の若者は、実際には、その多くが成長の過程で日本人側の偏見と差別にぶつかり、アイデンティティの葛藤を体験している。だが、彼らの存在と意識は、実に多様化し揺れ動いている。本書は、2世・3世と呼ばれる人々の聞き取り調査を通して、民族問題とそのアイデンティティを考えるとともに、日本社会の構成員としての90年代の「在日」の生き方を模索する。
目次
序章 「日本人」と「非日本人」
第1章 「在日」の歴史
第2章 「在日」の現在
第3章 「在日」若者世代のアイデンティティ状況
第4章 共に生きる―民闘連の若者たち
第5章 在日同胞のために―在日韓国青年会の若者たち
第6章 在外公民として―朝鮮学校卒業の若者たち
第7章 一個人として―自己実現を追求する若者たち
第8章 日本人になりたい―帰化する若者たち
終章 共生社会の実現のために
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まちゃ
14
在日朝鮮人・韓国人の形成は韓国合併以前の江華島条など日本による植民地支配による。戦後は日本国民、外国人の権利も否定。しかし、いずれは祖国に帰りたい、その際にそのために子供たちに言葉、歴史、文化の教育を施すことが必須条件だったが、政府は民族学校を弾圧。正当化の理由は日本国民なのに外国人としての教育をするのはけしからんとの事。一方で1945年に日本に在住する朝鮮人から参政権を剥奪。日本国籍でも日本の内地に戸籍を持たない朝鮮人は本当の日本人ではないというのが理由づけ。 2020/08/26
二人娘の父
11
初版93年で、おおよそ30年前の著作ではあるが、個人的には「在日コリアン」関連の本を読み続けてきたなかでは、とてもタイムリーであった。前半は類型的な在日韓国・朝鮮人という属性の分析にあてられているが、後半の聞き取りによる生活史の語りは、やはりリアルである。川崎市川崎区出身の私は、おそらく日本の中でも「在日」の人々と縁が深い方の人間であると自覚している。語られる内容にも身近に感じることが多い。しかし彼ら/彼女らの内面にそこまで触れることは少なかったと自省した。差別という問題を考えるうえでは必読文献だろう。2022/05/11
tellme0112
11
終章手厳しい。ま、だから「普通」だと差別しちゃうし気づかないし、気づけないんだね。ここで出てくる「狭山事件」…。2020年になって味わう1990年代の本。あとこの間の各地の実践や交流も記録に残されてるはずなので読んでみたい。日本人だと思って接する相手は海外にルーツ持つ人かも、中には在日かも、と想定しながら接していくのがいいのかな。「日本人」の意味拡張。私は「実は在日なんだよ」って言われたらどのように接するのか。2020/10/31
モリータ
7
◆1993年初版中公新書刊。著者は1947年生、埼玉大学教養学部教授、日本解放社会学会会長(当時)。◆「日本人」と「非日本人」の各類型と「在日」の歴史を概観し、在日韓国・朝鮮人の若者(当時)のアイデンティティ状況について類型化しておさえたうえで、その類型ごとに在日韓国・朝鮮人への聞き取りを記述する。◆「人間はみんな同じだ」というのは、人権思想として現代社会が獲得した価値理念であり、社会規範である。だが、学生たちのレポートを読むかぎり、この理念はねじまげられたかたちで内面化されてしまっているように(続2025/04/22
編集長
5
在日の若者のアイデンティティを、150名超の聞き取りに基づき、共生志向、同胞志向、祖国志向、帰化志向、個人志向の5つに大別し、各2人のライフヒストリーを紹介している。つい最近、在日のみなさんとの交流の機会があり、もっと知りたいという思いから読んだ。違いをよく理解したうえで、"ともに生きる”ために自分にできることを実行したい。良書。日本への反感は想像していたほどには強くなく、紙面から伝わる空気も重苦しくなかったが、出版から約30年経った今、在日に対する日本社会の態度は悪化しているのではないかと危惧する。 2020/03/13