感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
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24
街の景観とか環境デザインとかの言葉を聞くと、人間が環境に働きかけるというイメージを持っていた。しかし実は「物」「空間」「自分」の三者は影響し合っている。自己を取り巻く環境への共感が、自分とは何者かという意識につながり、自己と環境は同時的倫理的に変容する。そうか、街づくりには倫理が必要なんだ。そう考えると、今の全国一律風景、一人で出張ってるイオン、背景に溶け込まない様々なロゴに取り囲まれた子供たちに育つ自己イメージが心配だなぁ。学校の建物設計のコンセプトもそろそろ直さないといけないよね。2017/08/22
あんころもち
7
風景についての考え方が一変する名著である。視覚や土木技術に始まり、名所絵、平安文学まで、幅広い分野における人と風景との関わりについて考えられる。特に古典を通じた、「境」、「空」、「用」といった日本語における風景観の分析は秀逸である。「遠くに富士山が見える通り」「田園風景」「子どもたちが群れ遊ぶ川辺」。そういった素朴な風景へ素朴な情感を考え直す一冊である。2014/12/31
ヒナコ
5
今見ている風景を美しいと感じたり、あるいは醜いと感じたりするのはなぜか? 常日頃の散歩において、私自身が感じている問いを知るために読んでみた新書。 著者によると、人間はロマン思想や文学の風景描写などの先行する文脈を、その風景に投影して味わっており、文脈と独立した風景の美しさは存在しないということだった。また、人間は風景を擬人化して味わる傾向があり、山や川に対するアニミズム的擬人化という人間の認識の特質は、自分の見ている風景の味わいの少なくいない部分を占めているとのことだった。 →2022/04/22
にゃん吉
5
著者の言葉によれば、風景学というのは、早くから学際的な領域であったとのことですが、ゲシュタルト心理学、現象学、ワーズワースに、禅、漢詩、山水画、五行説、建築、土木に造園等々と、文理、洋の東西の知見を総動員するようなカンジで、人間、社会と風景の関係が論述されていて、非常に面白くありました。 2020/09/21
すがし
4
「風景」という門外漢には非常に捉えがたく感覚的に思える対象を、驚くほど精緻な科学的考察を入り口に地域社会やその中で営まれる生活、伝統文化の継承にまで踏み込んで語ったとてつもなく視野が広く深い著作。文句なく名著。2012/07/07