感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きいち
42
脱稿後出版前に宮本は亡くなっている、最晩年の一冊。絵巻物を渉猟しテーマごとに参照しつつ「平安時代の人はどんなふうに脱糞放尿してたんだ?」といった子ども時代に抱いた疑問に答えていく。宮本ならではと思うのが、絵巻物の内容に加え、日記などの史料、そして自分で歩いて実見したリアルな各地の仕事ぶりや習俗までとにかく綜合して考えていく姿勢。この印刷では絵そのものはほぼ読み取れないのだけれど(なので本当は絵巻物大成を横に置きながら読むのが正解なのだろうけれど)、その綜合の手つきを読んでるだけで十分楽しい。いい本だった。2017/11/23
yoneyama
23
全26巻の日本絵巻大成の月報(立派な本のオマケ)に毎度連載されたものをまとめた本。項目ごと簡潔に触れられているが、さすが足で歩いて来た宮本博士。あふれる経験の中からスイスイと面白いこぼれ話があふれる。本当は立派な本体に美しい画像があるのでしょうが、こちらはしょぼい半紙刷り風の小さい画像なのが仕方ない。どの項をめくっても面白い。現代の常識は思い込みに過ぎず、日本人らしくなどというのはナンノコッチャということを知る。子供、生首、運搬、農耕、工具、著者の解説がなくては何もわからない。面白い。2022/08/13
いの
18
絵巻物から庶民生活を考察している本です。小さな絵を凝らしてみるとなんとまあ細かいこと。描かれている人物達には動きがあるので何かと想像してしまい刺激的でした。日本人は陽気だったのですね。移ろう四季のなかでどういう食生活をしていたのかも気になっていたので特に「農耕」の章は楽しかったです。「信貴山縁起」の庭前の季節の植物や「住吉物語絵巻」の畑づくりの絵をみて嬉しくなりました。最後の章より、明りとりであるお月様は尊い存在。昼と夜の世界がはっきりと区別されていた頃の妖怪達も知りたくなってしまいました。2019/12/24
maekoo
16
絵巻物から民俗学に誘う素晴らしい書! 柳田国男・渋沢敬三各氏の創り上げた民俗学を引き継ぎつつ日本全国の庶民の生活を自分の足で調査し分析した巨星の解り易い民俗学解説書でもあります。 特に生活用具や技術に造詣が深く農業指導者であり社会教育者でもある氏の示唆は深い! 先に紹介した図典である「図説民族探訪事典」と合わせて読むと大変深まり、日本の民族風習と平安から室町時代の庶民の姿と「生」が浮き彫りになります。 この流れは網野善彦氏にも引き継がれ氏の[「無縁・公界・楽」日本中世の自由と平和]も読むと深まります!2022/08/20
さっと
11
日本を歩いて歩き去った希代の民俗学者・宮本常一は膨大な記録を残しましたが、このように新書版や文庫版になっているものはごく一部ではあれ、その著作にふれられる良い機会だと思います。著者本人も言及していますが、ふだん、絵巻物を見られる機会なんてそうそうないもの。今度、中央公論社から、それらをまとめた集成が出るってんで、月報をまかされたことを口実に、ご自分の考えを整理し、発表されたそうだ。語源から今に残る風俗の名残りまで、絵巻物というフィルターをとおして見る歴史や文化。いやー、歴史ってほんとにいいものですね。2017/02/03