感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こまったまこ
5
とかく評判の悪い松岡洋右だが私はこういうガッツのある人間は好きだ。そんな嫌われ者松岡の研究書。彼の生い立ちから亡くなるまでを主に外交・政治活動を軸に追っている。松岡を悪役足らしめんとするのは国際連盟脱退と三国同盟締結、日米了解案の反対ではないかと思う。しかし本書ではそれぞれにおいて松岡の考えと立場を解き明かすことで松岡の正当性を提示している。彼はいつも政府の尻拭い的な役回りをし、その突飛なやり方を理解されない為に疎んじられたのではないか。長生きして東京裁判で連合国にガツンとお見舞いして欲しかった。2016/03/10
Tamai Hideaki
4
中古1000円(送料込)。松岡洋右研究の嚆矢。松岡の生涯を追い、精神史的視点から松岡を論じている。故に「いえまいか」「思われる」といった推論が多いのは仕方ないと思う。85頁「既存のものを、せいぜい組み立て直したり、斬新なキャッチフレーズにしてみせる才能こそ松岡独自のもの」、136頁「満州中心主義」といった主張は案外?新鮮である。松岡有罪説の再検討を行い、近衛の責任こそ重大であったと筆者は述べた。三輪先生は後『日本の岐路と松岡外交』の中で松岡の北進論を述べている。この主張には正直同意することができない。
筑紫の國造
3
日本が大東亜戦争に至る過程で必ず登場するキーパーソン・松岡洋右。現在あまり評判の良い人物とは言えないが、著者は松岡の人物像からその外交を再評価し、過剰な松岡批判に疑問を呈する。特に最後の「天皇制下に滅んだ男」の「松岡は人が匙を投げた国民的危機に2度までも対処した」との指摘は「なるほど」との思わせられる。出来ればもうすこし松岡のエピソードなどを取り込み、人物像を際立たせてもよかったかも。2016/07/27
バルジ
2
著者の松岡に対するアンビバレントな感情を吐露しているようにも思える評伝的研究。半世紀以上前かつ史料的な制約もあり古さは否めない。しかし当時の国際環境の中で松岡がいかなる軌跡を辿りその外交はいかなる特徴があったか、エビソードを豊富に盛り込むことにより浮かび上がらせる。松岡は自負の強い男である。アメリカ西海岸の大学で苦学して学びその発展するアメリカの中で自意識を強める。東海岸のエリートとの付き合いも無かったのも特徴だろう。松岡はその自負から火中の栗を拾うことを厭わない。一度ならず二度までも。2024/05/03