出版社内容情報
私は長く、藤沢作品の一読者であったが、別段、作品がそのときどきの人生的テーマに解を与えてくれたことはない。
教訓的作品として読んだこともない。
覚えてきたのは、静謐な物語と文体が体内の深い部分に触れてくる感触である。
空洞をふさいでくれるごときものを覚える折もあった。
癒されていたのかもしれない。(本文より)
歳月が持つ哀しみ、自分なりの小さな矜持、人生への情熱、権力の抗しがたい美味と虚しさ、喪失感――時代(歴史)小説を舞台に、静謐な文体で人の世の「普遍」を描き続けた作家、藤沢周平。
ノンフィクションの名手が、その人と作品の魅力に迫る。
内容説明
まるで悔いのない人生などない―静謐な物語で、人の世の「普遍」を描き続けた作家、藤沢周平。ノンフィクションの名手が、その人生と作品をたどる。
目次
第1部(修業時代の秀作―『木地師宗吉』;作家への途―『暗殺の年輪』ほか;負のロマン―『暁のひかり』ほか ほか)
第2部(作風の転機―『用心棒日月抄』;用心棒ふたたび―『孤剣』『刺客』『凶刃』;世話物の連作―『橋ものがたり』 ほか)
第3部(大人の物語―『海鳴り』;権力への階段―『風の果て』;史実に沿って―『市塵』 ほか)
著者等紹介
後藤正治[ゴトウマサハル]
1946年、京都市生まれ。ノンフィクション作家。『遠いリング』で講談社ノンフィクション賞、『リターンマッチ』で大宅壮一ノンフィクション賞、『清冽』で桑原武夫学芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
115
藤沢周平の評伝は何冊か出ているが、文学的に批評したり目新しい伝記的事実が付け加えられた著作はない。むしろ藤沢の生涯を辿りながら、作品との出会いや感想を語りたくて書いたような本ばかりだ。本書もその種類に属するが、そうした本を多くの人が出したくなる作家は他にいない。数多い江戸期の地方の藩を舞台にした時代小説の中でも、なぜ自分が藤沢作品に惹かれるのか理由を確かめようとしている。英雄や成功者ではなく敗残者や挫折者、血統でなく実力で這い上がった者の苦闘や諦念に、多くの現代人が共感するものを見い出しているのがわかる。2025/05/09