出版社内容情報
コロナウィルス感染拡大のなか、小説家のヤマネは、『実践講座・身近な場所を表現する/地図と映像を手がかりに』という講座を担当することになる。
PCを通して語られるそれぞれの記憶、忘れられない風景、そこから生まれる言葉……。
PC越しに誰かの記憶が、別の新たな記憶を呼び覚まし、積み重なってゆく。
人と人とのあらたなつながりを描く長篇小説。
読売新聞連載、待望の単行本化。
内容説明
外出が制限され、人と会って話すのが難しかった長い日々…。作家のヤマネは、「思い出深い場所」をテーマに作品を作るオンライン講座の講師を引き受ける―年齢も、仕事も、住む場所も様々な人々が、記憶の底から浮かび上がる風景や、ささやかな思い出を画面越しにやりとりしながら、ゆるやかにつながっていく。「読売新聞」夕刊連載小説・待望の単行本化。
著者等紹介
柴崎友香[シバサキトモカ]
1973年、大阪府生まれ。99年「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」が「文藝別冊」に掲載されデビュー。同短編を含む『きょうのできごと』が2003年に映画化。07年『その街の今は』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、10年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、14年『春の庭』で芥川賞を受賞。24年『続きと始まり』が芸術選奨文部科学大臣賞、谷崎潤一郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
161
読んでいるというよりは、ある。そこにあるものを見ている。作中に、富士山は見えるとか見えないとかいうよりは、あるとかないとかってほうがしっくりくる、というのが出てくる。この小説自体がまさにそうだ。小説を読む、という以上に、ある。日頃考えていたことが、文章をとおして顕れる。読書をしていて、まるで体験しているようだ、などということがあるが、これはそんな体験以上、である。いろんな声がある。幾つもの小説の断片が、記憶が、小説のなかに埋めこまれている。⇒2025/02/16
のぶ
89
コロナウィルス感染拡大最中の話。小説家の森木ヤマネは、「実践講座・身近な場所を表現する/地図と映像を手がかりに」という講座を担当することになる。そんな中で語られるいろんな物語。淡々とした世界の中で、同じような展開がずっと続いていくけれど、不思議と飽きることなく、最後まで読ませてくれるのは、作者の筆力の成せる業なのでしょうか。柴崎さんは過去に、二作しか読んだ事がなく作家の傾向がわからないので、読んでいて戸惑う印象もあった。今後も読んでみたい。2025/02/09
シャコタンブルー
68
作家の森木ヤマネを主人公にして数年前のコロナ禍を描いている。作者自身がその時に体験したことやその思いが色濃く反映されているような気がした。閉ざされた空間と狭い人間関係の中でオンライン講座だけが社会と繋がるツールとなる。互いの顔を見て会話することで安心感と生きている実感を確かめているかのように。特別な出来事は起きずに淡々とした日常が過ぎていく。ロバート・ジョンソンのブルースを聴き、アパートから見えるバルコニーの光に魅入る。そして1枚の写真からその時間と場所と人物像を想像することの楽しさを共有した。2025/02/18
hiro
67
「続きと始まり」に続きコロナ禍の日常を描いた柴崎さんの作品。今回は『実践講座・身近な場所を表現する/地図と映像を手がかりに』というオンライン講座のゲスト講師を担当することになった小説家・森木ヤマネが主人公。ヤマネの出した、写真を選びその写真の場所を誰かに伝える文章を書くという課題に対する受講者の作品から、コロナ禍のためオンライン上で参加者たちが徐々につながっていくところが面白く、高架橋、国分寺崖線など知っている場所が登場すると自分も受講したくなった。このような出会いが当たり前の時代になったと強く感じた。2025/03/16
pohcho
64
写真や映像を使って身近な場所を文章で表現する、コロナ禍でのオンライン講座。講座の講師である小説家のヤマネと受講生のやりとりが延々と続く。ちょっと今、日常に疲弊しているもので、ぼんやり読んでしまったけど、おだやかで優しい会話に心癒された。2025/03/03