中公叢書
一九五〇年代、批評の政治学

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B6判/ページ数 334p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784120050688
  • NDC分類 304
  • Cコード C1095

出版社内容情報

この本では、一九五〇年代に活躍した三人の批評家、竹内好、花田清輝、谷川雁を軸にして、この時代独特の問題意識について再考したいと思う。
なぜ五〇年代なのか。一つにはこの時代が、戦後史の落丁のページとなっているように感じられるからである。
六〇年代は「高度成長」の時代と呼ばれ、八〇年代といえば「バブル経済」「ポストモダン」といったキーワードが良くも悪くも付いて回る。だが、五〇年代についてはこの時代を端的に形容する明確なイメージがあるわけではない。イメージ化されざる時代、それが五〇年代だといえようが、だからといって重要な事件が起こらなかったわけではもちろんない。逆に、朝鮮戦争、サンフランシスコ講和条約に始まり、六〇年安保の大規模抗議行動まで、戦後史を語るうえで言い落すわけにはいかない事件、時代を画する事件が引き続いた時代である。むしろそのことが五〇年代を特徴付けていたのではなかっただろうか。五〇年代とは、有り余る出来事のために、一つのイメージを与えることに失敗するほかない時代だったのだ。数多くの出来事は、それぞれに歴史の分岐点を形作ってもいた。もしもあのときあの道でなく、別の道を進んでいたなら、今現在の私たちも別のあり様で生きていたかもしれないと思わずにいられないほど、それぞれが論争的な出来事だった。
もとより「成長」であれ、「バブル」であれ、特定の時期を一色で塗るごときイメージは、そのイメージにそぐわないさまざまな出来事を逆に覆い隠してしまうことになり、その意味では共通に「俗」なイメージなのである。「焼跡から高度成長へ」といった単純な物語に依拠した戦後史のイメージから必然的に抜け落ちてしまう五〇年代は、むしろストーリーに乗らないその座りの悪さによって、単純化された歴史イメージを見直すための足かがりとなるだろう。――「はじめに」より

佐藤 泉[サトウイズミ]
著・文・その他

内容説明

戦争の時代と戦後の時代を蝶番のようにつなぐ五〇年代は、有り余る出来事のために、ひとつのイメージを与えることに失敗するほかない時代だった。この時期を代表する批評家、竹内好、花田清輝、谷川雁の言葉は、五〇年代思想の特色を鮮やかに映し出す。アジア問題から出発したナショナリスト竹内、地球的視野に立つコミュニスト花田、文化と労働運動のオルガナイザー谷川。思想も活動領域も異なる三人だが、彼らの間には共通するテーマがあった。一つはアジア、もう一つは集団である。三人の批評家の言葉を再発見し、近代の語り方を重層化する試み。

目次

第1章 竹内好
第2章 花田清輝
第3章 谷川雁
第4章 近代の超克

著者等紹介

佐藤泉[サトウイズミ]
1963年、栃木県足利市に生まれる。1995年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。専攻は、近代・現代の日本文学。文学博士。青山学院大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

この商品が入っている本棚

1 ~ 2件/全2件

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

mstr_kk

6
途中まで、何の本なのか、何のために書かれたものなのか、わからないまま読んでいました。しかし第三章でやっと、書かれていることが心に届くようになりました。ああ、この本は谷川雁のための本なのだと。「1950年代論」という散漫な設定ではなく、もっとテーマを絞って、記述を整理してくれたらよかったのになあと思いました。ときおり現れる比較思想史(?)的な記述などは不要では。表面的なところを広げるより、切実なテーマを掘り下げたほうが、いろいろなものにつながっていくと思います。2018/04/26

LM

2
【通読】竹内好、花田清輝と谷川雁の三人を辿ることで、1950年代の批評家が俎上に載せようとしていた事柄に光を当てた著作。三人の批評家に共通していたのは、二項対立の拒否、そして二項対立的な思考が本来動いているはずのものを固定してしまうことへの拒否であった。ジャック・デリダの「脱構築」に近いところがあるように思うが、僕はデリダが根幹のところで何をしたかったのかを理解できなかったのに対し、三人の批評家は定まらぬ戦後体制のなかで戦争をどう捉えるかという切実な問題を抱えていたのだと感じた。2020/12/27

渡邊利道

2
戦後復興期、さまざまな可能性を孕んだ時代に民衆や集団の力を変革へのエネルギーに転化しようとした批評家として、竹内好、花田清輝、谷川雁を並列して論じる。戦争経験を経て可能性を信じた時代で、インテリが大衆を組織する、あるいはその前衛となるというスタイルではあるものの、直接的な関係を構想できた時代だったのかなという気もする。2018/07/04

takao

0
ふむ2025/04/14

tkm66

0
竹内好の再検討、再評価は全面的首肯・花田清輝は結構怪しい・以下略2018/05/06

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/12704746
  • ご注意事項

最近チェックした商品