内容説明
世代も身分も境遇も違う二人の男が互いに魅かれあい、そして離れゆく…。国の頂点を目指した男たちの熱き闘い。
著者等紹介
奥山景布子[オクヤマキョウコ]
1966年愛知県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は「蜻蛉日記」「和泉式部日記」「源氏物語」「とはずがたり」「四条宮下野集」など。高校教諭、大学専任講師などを経て主婦業のかたわら創作を始める。2007年に「平家蟹異聞」で第87回オール読物新人賞を受賞、受賞作を含む短編集『源平六花撰』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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なゆ
58
宮木さんの『泥ぞつもりて』の中の「東風吹かば」からの流れで読んでみたいと思って。あちらでは源定省(宇多天皇)目線での、道真から心がだんだん離れていく様子、そこに時平が付け入る様とが哀しかったが、こちらではどっぷり時平目線で。どちらの道真も才能ありすぎて堅物すぎて、なおかつ定省からの信が厚すぎるために疎まれてしまうとは…。なんだか頭いいけど人付き合いの不器用な人の典型のよう。時平と道真がそんなに敵対しあうだけではない描かれ方で、桜と梅になぞらえてあるのがいい感じ。紀貫之の存在感もホッとさせてくれてよかった。2017/09/20
藤月はな(灯れ松明の火)
52
北野天満宮縁起などを見る限り、悪役とされる藤原北家の時平。しかし、この作品の時平は慎重さと知略で政を司りながらも民の幸福を願い、藤原という家の繁栄や願いに悩んでいる。詩、政の才能に溢れた菅原道真に惹かれながらも「才能なきものは去れ」という考えには迎合できず、阿衡事件での軋轢による宇多上皇の妨害から妹らを守ろうとする姿は悪役というイメージからはかけ離れているが、同時に人間味に溢れ、応援したくなります。孤高の道を進んだ道真の心根は如何だったのか。伊勢、紀貫之など、百人一首でも御馴染みの顔ぶれも心憎い演出。2013/12/19
森の三時
32
梅と桜は、本当に並んで咲く道はなかったのだろうか…、そんな問いかけをしたくなる。菅原道真と藤原時平の構図は、太宰府に左遷された悲劇の秀才とそれを謀った悪役。本作品は、それを覆し、時平を単純化された悪役として描いていないところが良かった。たとえ実現しようとする政策に大きな違いはなくても、その手法や速度において考え方が異なれば、決定的な差となる。現実の企業内政治でも同じことだ。だから、私は時平の苦悩に感情移入できる場面が度々あった。歴史に「もし」はあり得ないが、二人が腹を割って話していたら?と儚い夢想をした。2017/04/12
銀河
32
読売新聞に書評が載っていた平安の時代小説。読むのに時間がかかった。真剣に文字に向き合わないと私には理解できなくて、さらに人物が覚えられず、巻頭の「人物関係図」を何度も見直す。藤原家の嫡男、時平と、学問の神様、菅原道真。時平側からずっと見ていたので、上皇にされる数々の仕打ちにかなりムカついた。これは上皇暗殺しかないんじゃ…と不穏なことを考えていたから、時平のしたことは許せる。でも、後日談を読むと後味が悪い。筋が通っていて、雅で上品な話だった。読み終えた満足感はかなり高く、百人一首を手にしたくなる。2011/04/25
なつきネコ@執事になる化け猫 全てのご主人様、お嬢様、紅茶をどうぞ☕
23
ひらがなの歴史から藤原時平を知った。元々、時平を悪役のイメージがなくて、プレイボーイで和歌が好きな時平。紀貫之や、布都子の関係性はまさにそのまま。和歌の世界の美しさはいいな。しかし、菅原道真との関係は藤原と政治の関係性を強く感じさせる。この二人は天皇制と漢学と和学の対立でもあったのがわかる。しかし、道真の感情がわからなず時平の視点のみのため、道真の実像が見えない。虚像の恐怖で二人は別れてしまう。二花は並ばずとあるが、それは道真の梅、時平の桜とみえるが、実は皇室の菊との関わりを表した表現かもしれない。2022/06/16