出版社内容情報
不義の愛欲に溺れ、尼として諸国を遍歴した奔放な女、そしてその娘――謎多き古典「とはずがたり」を大胆解釈した初の書き下ろし小説
内容説明
十四の歳から寵愛を受け続けた後深草院、結ばれぬ初恋の人・実兼、禁忌を犯した高僧・有明の阿闍梨…男たちとの愛欲に溺れる華やかな宮廷生活から、晩年は尼となり自らの脚で諸国を遍歴した、美しく、気高く、そして奔放な一人の女がいた。己の出生を知らぬまま平凡に暮らしてきた露子はある日、亡き母・二条が遺した手記とめぐり合う―。鎌倉末期の、もつれ合う愛が現代に蘇る長篇小説。
著者等紹介
奥山景布子[オクヤマキョウコ]
1966年愛知県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。主な研究対象は「蜻蛉日記」「和泉式部日記」「源氏物語」「とはずがたり」「四条宮下野集」など。高校教諭、大学専任講師などを経て主婦業のかたわら創作を始める。2007年に「平賀蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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森の三時
26
鎌倉の世に生きた女の告白に、宮廷の華から、さすらいの尼まで、壮絶な人生が見えてくる。踏み散らされた花、風に舞う花びらのごとく、この時代に女が抗うことなどできようはずもない。現代の倫理観から見て、時に嫌悪感を持ち、時におぞましく感じる、秘すべき事柄の数々。そのすべてを思し召しのまま受け止め、恨み言なく書き残した、とはずがたり。最後まで読み通すと二条に寄り添う気持ちが強くわいた。楔とは、物を割るときと、物と物が離れないようにするときの両方に用いられるが、後深草院の楔は二条にとってあまりにも深く強く…。2018/01/02
藤枝梅安
13
いろは歌の「うゐのおくやまけふこえて」からとった素敵なペンネームである。「とはずがたり」は後深草院に仕えた女性・二条の日記と紀行文だが、この小説では、二条と西園寺実兼との間に生まれた女性・露子が語り手。実兼に託された生母の日記を読み、見たことのない母の生涯を様々な思いで振り返るという筋立て。斬新な設定で、「とはずがたり」の新たな解釈をいくつか見せている。特に、露子が五帖の草子に細工を加えたという場面を織り込んで、「とはずがたり」の救いのない物語にいっそうの哀れさを加えている。2010/04/09
太陽
11
大学のゼミで「とはずがたり」を読み、二条に想いを馳せたことがあった身としては、率直に「嬉しい」と思いました、この本を書いてくれたことに。原文をただ現代語に訳すのではなく、娘の露子の視点を通して、現代の私たちが「とはずがたり」を読んだ時に感じる「想い」を代弁してくれたのが何より嬉しかった。写本が1冊しか残されていない「とはずがたり」が散逸せずに現代に残ってくれたことが嬉しく、おそらくその想いを込めたのであろうラストシーンには思わずこみ上げてくるものがありました。2009/10/30
katta
9
☆☆☆☆☆ いやー、拾い物といっては失礼だが、新人2作目のこの作品、非常に面白かった。元々この分野の研究者なのかもしれないけど、豊富な知識をきちんと読み手に分かるように説明しつつ、鎌倉末期の宮廷の姿を浮き彫りにしていく手腕は見事。身内の隠された日記を読み、その姿を偲ぶという手法は現代小説ではよく使われる手法だけど、まさかそれを「とはずがたり」に使うとはね。脱帽です。もったくさんの人に読んでもらいたい。2009/05/15
蛸墨雄
8
なるほど!古典をこういう方法で現代語訳するのか!うまい!奥山景布子さんすごい!とおもってしまった。古典に親しみたく、完訳本や解説本も取り揃えているが、なかなか原文では読み進められず、結局現代語訳をまず読んでしまう。それにしても、この時代の暮らしにくさったらないなぁ。この「とはずがたり」が昭和13年まで発見されなかった理由までなんとなくオチつけていて、本当に奥山さんすごいとおもったのでした。2020/12/23
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