内容説明
「政治主導」の可能性について論じられるようになって久しい。多くの論者が、政党の力を高めることを提唱してきたが、本書は、政党・内閣を支える「よき官僚」の条件を探ることで、「政治主導」の条件をその背後から解き明かす。素材は今でいえば財務省、当時は大蔵省。時代は、昭和27年から37年の10年。高度経済成長前夜にさかのぼり、戦後日本の政官関係の原点を、人物の横顔とともに描いていく。
目次
はじめに 「政治主導」の構図
第1章 「調査の政治」と「審議会政治」
第2章 政令諮問委員会の「戦前型」審議会政治
第3章 大蔵省大臣官房調査課の「一兆円予算」編成
第4章 政権交替と大蔵省主計局改革
第5章 自民党政調会の「政策先議」と政府審議会の再編
第6章 国民所得倍増計画の内閣政治
おわりに 党政調会―「原局型官僚」対内閣―「官房型官僚」
著者等紹介
牧原出[マキハライズル]
1967年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員を経て、現在東北大学大学院助教授。専攻は行政学・政治学
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感想・レビュー
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日の光と暁の藍
6
【官房型官僚を復活させよ】政策の調査活動における戦後の政官関係の解明が本書のテーマである。人事交流や出向、内閣の調査機関に抜擢された官僚は、省庁に留まったままキャリアを積んだ官僚とは違う発想が出てくるという。著者は前者を官房型官僚と呼び、後者を原局型官僚と呼ぶ。官房型官僚は当然原局型官僚と対立する。しかし、原局型官僚には見えてこないマクロ経済の視野であったり、経済成長の長期的視点に立った政策立案が可能となる。代表者が下村治であり、森永貞一郎や石野信一、谷村裕である。予算編成過程の新たな歴史的側面を知れた。2020/11/03
Ra
4
2003年初版。「「調査」活動をめぐるロール・プレイを諸史料から透視し、いかにして戦後日本の政治家と官僚の役割分担、統治機構の運用ルールが整備されたかを明らかにすることが本書の目的」。経済官庁は、戦時・占領期行政における経済計画の策定に当たり内閣に置かれた調査機関と各省官房(総務局)とを往復し、省外のネットワークを形成。他方、省内においては、原局型と官房型の間の亀裂が生じることとなる。1950年代においては、各省の調査・企画部門と諮問機関が直接、国会・政党・世論と対峙し、各省発信の「調査の政治」が剥き出し2023/08/20
Haruka Fukuhara
3
(抜粋)「官僚主導」が本当に過去において存在しつづけていたのか疑わしくなる。それは、一九九〇年代後半に行政改革会議を通じて省庁再編が論議されつづけていたように、敗戦から一九五〇年代にかけて官僚制がたえざる機構再編の下に置かれていたからである。機構を動かし続ければ、キャリア・パスを見通せず、所轄領域を奪われる可能性にさらされ続ける官僚は動揺する。いかに官僚が政策知識を独占していようと、その政策知識を組み合わせる余地が政党の側には残されるのである。(続)2017/03/21
ななっち
2
名前は挑発的ですが、内容は学術的に官と政が、どのような力学、調整により政策を実現していったかの検証もの。池田内閣の所得倍増計画など、具体的な事例があるので分かりやすいと思います。それにしても、官房長というのも戦後の制度なんですね。吉田茂首相が「ところで、官房長とは何かね?」と発した言葉と、官僚組織が今現在捉えている官房長の姿との大きな懸隔を感じます。また民主主義の歴史のあるイギリスでは官と政の世界もドラマとして一般コメディとしての波及力があるようで、そのための番組も作られていることが興味深いです。 大臣2012/05/10
中将(予備役)
1
戦後初期〜高度成長期における大蔵官僚の政策形成初期の動きを丁寧に追う。筆者は長い記述を通し、働きかける主体や対象の変化を指摘し、大蔵官僚にも「官房型」と「原局型」(=主計局)がいて、戦後初期に原局型が強い影響で均衡予算実現→独立後戦後デモクラシーに適合した官房型が所得倍増など政策策定に関与→1965公債発行後政調会からの要求・予算編成の制度に原局型が関与という変化を描く。同時期を90年代マスコミが大蔵省支配と批判し政治学が政党優位論を指摘する差を、党政調-原局型連携の解釈とする論旨は、最後まで読むと納得。2025/03/09