出版社内容情報
航空隊から姿を消した若き整備兵と、太平洋上で米軍捕虜となった水兵――。『逃亡』『背中の勲章』『珊瑚礁』ほかを収録。語注付き。
過酷な運命に翻弄される男たち――。冷静な視点で描き切る、人々の苦悩。戦況の悪化する昭和一九年春、軍用機を炎上させ、海軍航空隊から脱走した若き整備兵。戦争に圧し潰された人間を描く『逃亡』。昭和一七年四月、太平洋上で敵艦隊を発見後、応戦むなしく米軍捕虜となった特設監視艇乗組員の抑留生活を綴る『背中の勲章』。サイパン島の少年の悲劇『珊瑚礁』他を収録。軍隊・戦時用語注付き。
内容説明
戦争からも、国家からも―。赤裸な魂を曝した男たちの肖像。告白者との長年の関係から生まれた名篇3作ほか、作家の誠実と技倆が歴史の襞を照らし出す。軍隊・戦時用語注付き。
目次
逃亡
帰艦セズ
闇の中からの声(抄)
月下美人
背中の勲章
珊瑚礁
動物園
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころりんぱ
42
「逃亡」「帰還セズ」「月下美人」は戦闘機爆破事件を起こし逃亡した脱走兵の話を元に視点を変え書かれた三編。吉村さんと人物との関係性が面白く、物書きとしての意地や一人の人間としての相手への気配り、存命の人間の史実を小説にする難しさなど、3編読むことでわかることもあった。「背中の勲章」は捕虜となり収容所で暮らした中村一水から見た戦争。真珠湾で9軍神になれなかった1人目に続き、中村は捕虜2号。生きて虜囚の辱めを受けず…を全うできなかった中村の心の動きが苦しい。「動物園」泣いた。多くの動物もまた戦争の犠牲者。2016/01/09
kawa
31
昭和の戦争の悲劇を描く7編。文庫本等で既読の3編を除く 「闇の中の声」「月下美人」「珊瑚礁」「動物園」短編4作を読了。どの編も印象的なのだが、とりわけ「逃亡」の主人公とのその後の交流を描く「月下美人」、空襲による2次被害を心配しての上野動物園の猛獣たちの毒殺命令の「動物園」(飢えていても毒物入りの餌を決して食べない動物たちの姿)が切ない。2023/12/30
マウンテンゴリラ
4
戦場で命を落とした人たちの悲劇ではなく、また違った戦争の悲しみ、苦しみを感じせてくれる作品集であった。集団の規律という面において、軍隊ほど厳しいものはなく、またその性質上、ある意味で当然とも言えるかもしれないが、旧日本軍のそれには、やはり狂気じみたものを感じざるを得なかった。軍部と言えば、当時の社会では最高のエリート集団といっても過言ではないだろう。そのような集団が作り上げた狂気が、一等国から最強国へと無理に無理を重ねるなかで、客観的冷静さを見失ってしまった結果とも言えるのではないかと感じた。→(2)2016/11/19
フンフン
3
「逃亡」「帰艦セズ」「月下美人」の3作品は、同じ主人公を別の角度から描いた作品である。当時、徴兵忌避は重罪であった。それでも軍隊の激しい制裁に耐えきれずに逃亡する兵はいたが、たちまち捕えられるのが普通だった。ところが、主人公は死刑確実の軍用機炎上事件を起こして禁錮中に、警戒をかいくぐって逃亡し、ついに戦後まで逃げおおせたのだ。軍用機炎上にいたるまでの過程も、いかにもそのような状況に追い込まれれば、取らざるを得なかっただろうと読者を納得させる。逃亡の緊迫感あふれる筆致は読者をひきつけて離さない。2019/07/05
たつや
2
既読のものも含め、「逃亡」「帰還セズ」「背中の勲章」等、全7篇の戦記物を堪能出来た。子供の頃、明治生まれと聞くと随分昔の人と思えたが、令和生まれの子も、昭和生まれと聞くと、古いと思うんだろうな。2024/01/13